目次元Salesforce Venturesの浅田氏が2020年7月に立ち上げた独立系VCがOne Capital。VCでありながらリファレンスチェックを実施するのは何故なのか。VCとして、投資家としてどう起業家と向き合っているのか。VCとしての思想をお伺いしました。投資判断はシンプルな機能でカスタマーサクセスできるプロダクトかどうかを一番大事にしている。VCとしての投資方針や投資検討の際に大事にしていることはなんでしょうか?大事なことは山ほどありますが、一番重視しているのはプロダクトです。チームが一番大事という意見がありますが、私の解釈ではチームが良ければ、必然的に良いプロダクトが作れると思っています。大事なことはシンプルな機能で課題を解決できていることが良いと思ってます。複数の機能を組み合わせた統合ソリューションを提供するところがありますが、それは裏を返せば自信のなさ、そしてターゲットが定まっていないことの表れだと思っています。PMFから10年後ならそれでもいいですが、OneCapitalとしての出資ターゲットはMRR500~1,000万のレンジなのでその時に複雑なプロダクトは要らないと思っています。だからこそ、一つの機能で一つの大きな課題を刺しに行ってる姿勢を高く評価します。仮にその機能が間違っていたら別の機能でまたチャレンジすれば良いだけです。私が一番避けたいのは投資家として何に賭けているのかがわからなくなることです。そうならないためにも広く浅くではなく、一つの機能で深く課題を解決しにいっている企業に投資をしたいと考えています。プロダクトの評価、そして将来の可能性というのはどのようなプロセスで見定めていくのでしょうか?まずは当然そのプロダクトを自分で触ります。そしてその上で起業家にプロダクトを説明してもらいます。一緒にプロダクトを見ながら、細かい機能の質問から中長期的なロードマップについての会話をしていきます。大事なことはそのやり取りの濃さと速さです。当然ながら起業家の方がプロダクトについては詳しいはずです。その中でどれだけプロダクトについて思考してるか、顧客視点に立っているのか、そしてプロダクトをMRRに転換できる実行力。これらを将来のロードマップと開発能力を並行して確認しながら、本当にそのロードマップを顧客に見せられるかという問いを立てます。仮に実現可能性が低く、顧客に見せることができないものなのであればそれはカスタマーサクセスのためのロードマップとは言えない。つまりカスタマーサクセスに対しての志向性が低いということなので、そのような場合には投資は行わないという判断になります。起業家の日常の姿を知ることができるのがリファレンスチェック。投資検討においてどのような課題感を感じていましたか?ファイナンスの場はプレゼンテーションが主な場なので「ハレ」の姿であり、当然ながら全員がそこに向けて頑張りますし、自分だってファンド立ち上げの際には同様でした。ただその一方でモチベーションが低くなった時やイライラしてる時などダメな自分もいるわけです。そういうマイナスな部分というのはハレの場ではなく、日常の中に現れるものなので、その日常を知りたいという課題感がありました。その中で日常を知れる手法としてリファレンスチェックがありました。ただ自分自身でリファレンスチェックを何度か自らやったことがあるのですが、質問の仕方やコミュニケーションを工夫しないと、ただポジティブな回答しか返ってこないということが多く、リファレンスチェックという行為自体が年中頻度高くやるものではないので、 ナレッジがそこまで貯まるわけでもなく、タイミングによっては精度が甘くなることもあり、そこは課題感として感じていました。back check導入の決め手はどんなところでしたか?世の中のBtoB SaaSは、そもそも認知されないとたどり着けないので、そういう意味できっかけとしてはback checkという名前をタクシー広告で見て知りました。「リファレンスチェック=back check」という第一想起だったので、リファレンス取りたいと思った時には他を調べる間も無く、まずは問い合わせをしました。問い合わせしたらすぐに連絡がきて、インサイドセールスの方に的確な質問をされ、私がVCと自己紹介をし起業家のリファレンスが取りたいと伝えたら、 VCとして使える質問のテンプレートを用意しますよと言われ、すぐにプロダクト環境を用意してくれ、その日中にリファレンスチェックを開始できた。サービス内にいい質問がたくさんあり、これは非常に便利だとその時に実感しました。リファレンスチェックの有効性はどのような部分にあると思いますか?日本全体の市場だとリファレンスチェックは広がっておらず、自分が初めて知ったのもセールスフォース社に転職した時でした。当時は3名の推薦者にお願いするのも大変だったと記憶しています。その時の自分の体験もback checkの有効性を直感的に感じるのに役立っています。セールスフォースに入社後に自分のリファレンスの結果を聞いたのですが「ストレスフルな環境の時にどんなパフォーマンスをしているのか」とかを聞いていて、推薦者も良い部分も悪い部分も両方答えてくれたと後日談で聞きました。これって私の良いところだけでなく、 悪いところや短所も知った上で会社が採用の判断をしているということはすごく良いプロセスだなと感じましたし、質問力も問われると感じました。今後、日本も人材流動性は高くなるでしょうし、リモート環境が当たり前の仕事環境になっていきます。このような労働市場の変化があるときに、リファレンスチェックの浸透、言い換えれば back checkが広がることが「質の高い人材流動」を引き起こす一つのきっかけになるのではないかと考えています 。リファレンスを取られるということがわかった上で転職活動をする形になれば、現職でしっかりとパフォーマンスを出すことが良い転職に繋がるわけなのでパフォーマンスを出した上で新しいチャレンジをするために転職をするという「円満退社」が増えると思います。この円満退社で人材が流動化していくと日本の労働市場は更に良くなっていくと思います。back checkのレポートで投資案件を見送ることも。パートナーとして長く信頼関係を築ける人に投資をしたい。取得したレポートはどのように活用されておりますか?リファレンスチェックを実施するタイミングはビジネスDD・リーガルDDを終えた後の最終DDのタイミングで実施しています。ビジネス・プロダクト的には投資をしたいが最後その起業家がどうかという観点で最終確認として見ます。最初にレポートにサマリーが出ているので、それを見ます。まずはそこで大丈夫かを確認している。ネガティブなサマリーがでた時には、細かく見ていきます。とはいえ、自分がリファレンスを取られてもネガティブな部分は出てくると思いますので、 単にネガティブだからダメというわけではなく、それを知った上で今後も人として付き合っていきたいかを考えます 。価値観や働き方を知った上で、これは長く一緒にやっていけないと判断した場合には投資を断ることもあり、一件実際にリファレンスレポートの内容を参考に断ったこともあります。通常だったら絶対に投資する案件だったのですが勤怠が悪かったり気分屋なところがあり、DDプロセス中にもその懸念を感じる部分があったので、今後自分がパートナーとして信頼を構築できないと判断してお断りしました。もちろん、その会社が今後大きく成長する可能性もあるとは思いますが、自分の中で納得感が高い判断でした。back checkやリファレンスチェックに対して将来どのような期待を持たれていらっしゃいますか?今のプロダクトは質問ライブラリの充実性が非常に魅力です。ただリファレンスを取られる側は回答の負荷が高いので、リファレンスの回答者とって楽になっていくプロダクトにしていければ良いなと思います。例えば「Gmat」というCAT(Computer Adaptive Test)ベースのテストがあります。最初の正答率により動的にその後の質問が変わっていく仕組みなのです。それによりあれ?という方の場合は深堀質問が自然な形で増えて、そうじゃない方の場合は少なく、負担が軽くなるみたいなUXは良いかもです。重要なのは回答者のUXと全体のレポートクオリティのバランスをだと思うので、例えば回答者が忙しい方(上場企業の社長など)の場合には負担が軽くなる質問になり、その分推薦者の人数を増やすことをプロダクトが自動的に提案する等、そのバランスをプロダクトによってコントロールできるようになるとすごく良いと思います。もう一つは他社のDBとの接続ですね。例えばsansanと連携して誰からリファレンスを取って欲しいかを名刺データを見ながら指定できるようになったり、詐称がないかを他社DB(学歴、本人確認)と連携してワンクリックでわかるようになると第三者評価だけでなく個人の信用・信頼をワンストップでわかるようになるので、そうなるとより利用シーンも広がりますし日本全体にリファレンスチェック自体が広がっていくと思いますので、とにかくプロダクトの進化を期待しています!浅田さん、本日はありがとうございました!