目次創業から120年以上の歴史を持つ日本電気株式会社(以下、NEC)。長らく“新卒一括採用”で人材を採用してきた同社が近年、キャリア採用(中途採用)を本格化させています。2017年度時点でキャリア採用の人数は55名ほどでしたが、2021年度には619名にまで拡大。今では新卒採用と同じくらいの人数をキャリア採用で集めることができています。そんなNECのキャリア採用を推進していく上で欠かせなかったのが、リファレンス/コンプライアンスチェックでした。わずか4年でキャリア採用の人数を11倍超にまで拡大させたNECですが、その過程でどのような課題が発生し、リファレンス/コンプライアンスチェックでどのように改善を図ったのでしょうか。NECがback checkを導入した経緯と活用方法について、人材組織開発統括部 タレント・アクイジショングループ ディレクターの大橋さんと同グループ シニアリクルーターの前田さんに話を聞きました。「このままではNECが立ち行かなくなる」という強い危機感NECの採用は新卒の割合が圧倒的に多く、2017年度のキャリア採用の人材は55名だったと聞いています。そこから4年後の2021年度には619名にまで増えていますが、キャリア採用を本格化した経緯を改めて教えてください。大橋:キャリア採用を本格化した背景にあるのは、「このままではNECが立ち行かなくなってしまうのではないか」という経営陣の強い危機感です。NECは1899年に創業し、来年で125周年を迎える歴史ある会社です。長い歴史の中で、NECは“新卒一括採用”を軸に人材を採用・育成し、大きく成長を遂げてきました。パソコンや家電製品などBtoC事業が好調で業績を伸ばしていた時代は、その採用手法が正解だったんだと思います。ただ、ここ数年でNECを取り巻く環境は大きく変化しました。主力事業もBtoC事業からBtoB事業に切り替わっています。ただ、会社の根底にある考え方や価値観はアップデートに時間を要しており、社会の変化に上手くアジャストしきれていない時期が続いていました。そうした背景から、2015〜2016年ごろを境に経営陣が「このままではNECが立ち行かなくなってしまうのではないか」という危機感を抱えるようになったんです。NECを大きく変えていく必要がある、と。大橋:その通りです。それまでの経営会議の議題は売上など、ビジネスの話がほとんどでした。組織や人事に関する話が議題にあがることはなかったのですが、次第に経営陣の中で「NECのカルチャーを変えていかなければいけない」という考えが強くなっていったんです。2018年に「カルチャー変革本部」が組成され、NECのカルチャーや価値観を変えていくことになりました。人事制度などを変えていくこともそうですが、まずは社内のダイバーシティ(多様性)を推進していくことが必要だと考えました。NECは長らく新卒一括採用を進めてきたこともあり、経営陣には転職経験がなく、NECのことしか知らないような状況。全員がほとんど均一な価値観のため、意思決定の方向性がひとつしかないんです。創業から今まで、NECはいわゆる“自前主義”を貫いてきており、それはそれで素晴らしい側面があります。ただ、変化のスピードが速くなっている時代において、自前主義だけでは補いきれない知識や経験もたくさんある。新卒採用も大事ではありますが、それだけでなく知識や経験のある人材を外部から採用してくることも同じくらい重要です。社内のダイバーシティを推進し、NECのカルチャーを大きく変えていくという狙いもあり、2019年からキャリア採用を本格化していくことにしました。(左から人材組織開発統括部 タレント・アクイジショングループ ディレクター 大橋康子氏、同グループ シニアリクルーター 前田幸代氏)「ないものをつくる」大変さ、地道に伝え続けたキャリア採用の手法実際にキャリア採用を始めてみて、いかがでしたか。大橋:最初はボロボロでしたよ(笑)。2019年にキャリア採用の業務を担うための専門チーム「タレント・アクイジショングループ」が発足しました。求人票の作成や選考は各事業部に担当してもらい、私たちはコンサルタントのような立ち位置で各事業部と接することにしたのです。しかし、当初は社内でも「キャリア採用って何?」という感じで。面接に関しても新卒採用の面接しか経験がないので、「候補者側は、NECへの志望動機があって当たり前でしょう」というスタンスでした。また、 キャリア採用の人数を2019年度に268名に拡大したのですが、そこまで多くの人数が一気に入社するのは初めてのことだったので、オンボーディングのプログラムもなく、キャリア採用で入社した人たちがどこにつまづくかもほとんど予見できていませんでした。その結果、キャリア採用の人たちも誰に何を聞いたらいいか分からない状態になっていたんです。ゼロからキャリア採用の体制を構築していくために、まずは各事業部に「キャリア採用とは何か?」を説明したり、面接で見るべきポイントなどを説明したりしました。事業部側に寄り添って、地道に手取り足取りサポートしました。前田:2019年ごろは、とにかく地道に活動していましたね。当時は求人票の概念も事業部になかったので、「キャリア採用をやっていきましょう」と伝えても、ただ応募が来るのを待っているだけでした。そうではなくて「どんな目的で、どういった人物を求めているのかを明確にし、それをドキュメントに落とし込んでいきましょう」と。最初はそこに時間と手間をかけましたね。大橋:当時、事業部側は「自分たちがアクションを起こさなくても、人事が人をあてがってくれる」と思っているような節があったように思います。前田:そのため、私たちで求人票のテンプレートを作成し、現場のメンバーが求人票を書きやすいようにしました。このテンプレートは今も継続的にアップデートをしています。キャリア採用を始めてから4年ほど経っているので、少しずつ慣れてきた事業部もあれば、まだ取り組んだことのない部署もあります。社内にも一定のギャップが発生している状況なので、引き続き「キャリア採用とは何か?」をテーマに社内サイトなどでの発信を続けています。大橋:今から20〜30年前はNECも人気企業で、世の中の多くの人に「入社したい」と思っていただけていたかもしれませんが、今は状況が異なります。時代や環境も変わり、今は「NECって何をやっている会社なんですか?」という人もいるくらいです。それくらいNECに対する認知度やイメージは変わっているにもかかわらず、社内はその変化についていけていない。重要であるはずのキャンディデイトエクスペリエンス(候補者体験)という考え方もなかったので、データを用いながら、いかに採用市場におけるNECの立ち位置が変わってきているかという背景から説明し、自分たちの変化の必要性を説いていきました。125年の歴史がある分、これまでに積み上げてきた価値観をアップデートしていくのは難しく、ゼロから立ち上げていくベンチャー企業の採用の方がまだ進めやすかったかもしれません。前田:大橋はよく「ないものをつくる大変さ」と「歴史あるものを変えていく大変さ」は全く異なる種類の大変さだと言っていて。私自身も本当にその通りだなと感じています。大橋:何もない更地に新しいものを作っていく方が断然スムーズに物事が進みます。NECは125年の歴史があるので、何か新しいことをするにもいくつもの許可や承認が必要。さまざまな社内のルールや規制がある中で価値観を現代に合わせてアップデートしなければならないのは、想像以上に大変でした。(人材組織開発統括部 タレント・アクイジショングループ ディレクター 大橋康子氏)人物像を立体的に描ける、リファレンスチェックに感じた可能性キャリア採用を本格化させる中、なぜリファレンスチェックの導入を検討し始めたのでしょうか?大橋:選考で候補者の“人となり”や“価値観”などをきちんと見極めることに課題感があり、入社後のカルチャーマッチにギャップが発生していたんです。面接官である現場メンバーは即戦力となる人材を求めるため、スキルや経験、資格の有無などを中心に質問しており、“人となり”や“価値観”の部分にまで目を向けられていませんでした。どういう接し方をしたら候補者が入社後に新たな職場環境で振る舞いやすくなるのか、得意・不得意も把握できていない状態で入社してしまうと、お互いの期待値にギャップが生じやすくなります。特にコロナ禍をきっかけに慣れないオンライン面接が増えたこともあり、余計に人間性の部分にまで目を向けるのが難しくなってしまいました。そこをどうにかしなければいけないと思い、面接官のトレーニングをしたのですが、それにも限界がある。適性検査という方法もありますが、検査結果を見て、「こういう人なんですね」と人物像を立体的に捉えることができるのは人事くらいです。面接を生業にしていない現場のメンバーでも、候補者の人物像を分かりやすく把握できるツールはないかと考えた結果、リファレンスチェックだと思ったんです。リファレンスチェックツールにもさまざまあると思いますが、なぜback checkだったのでしょうか?大橋:一般的なリファレンスチェックツールは取得までに最短で2週間、最長で1カ月かかるというスケジュール感だったため、既存の選考プロセスに入れるハードルが高いなと感じていました。数日以内にリファレンスを取得でき、なおかつ質問項目もカスタマイズできるツールを探していたところ、条件を満たすのはback checkだと思いました。また私自身、前職の部下が転職をする際に「リファレンスチェックの回答をお願いします」と打診を受けて使ったツールがback checkでした。そのときから、「すごく使いやすいな」と感じており、リファレンスチェックツールを導入するならback checkだろうと考えていました。1時間ほどの面接で候補者の人間性まで見極めるのは、やっぱり難しいことですよね。面接の場では、どんな人も基本的にポジティブな発言に終始しやすいものです。もちろん、リファレンスチェックですべてが分かるわけではないですが、候補者を適切に見極めるための立体的な情報を得ることができる。そうした理由からback checkの導入を決めました。導入にあたって、社内でもリファレンスチェックの重要性を説いたのでしょうか?前田:大橋が中心となって、マネージャーたちに何度か説明しました。リファレンスチェックに過敏に反応する人たちもいましたが、それでも賛同する声の方が大きかったですね。キャリア採用で入社し、現場で面接に取り組んでいる人たちは1時間という限られた面接時間の中で、細かい部分まで見切れない苦労をしてきています。そのため、「導入してくれてありがとうございます」と連絡をもらいました。back checkを導入したことは間違いではなかったですし、リファレンスチェックのニーズも確認できました。(人材組織開発統括部 タレント・アクイジショングループ シニアリクルーター 前田 幸代氏)back checkは入社後により活躍するための材料を得るツール実際に活用してみて、いかがですか?大橋:back checkには「リファレンスチェック」と「コンプライアンスチェック」という2つの機能があります。コンプライアンスチェックは、シンプルに候補者がコンプライアンス面で問題ないかどうかを確認するために活用しています。一方のリファレンスチェックは第三者から情報を得られることもそうですが、何よりも重宝しているのが「偽造検出」の仕組みです。これはback checkが独自で開発しているものなのですが、リファレンスチェックの内容が偽造されていないかを見抜けます。実はリファレンスチェックをやってみて、思っていたよりも偽造しようとする人がいることがわかったんです。中身を偽造するということは、入社後に仕事上で何か問題があったら隠そうとするはずです。そういう人は「自分だけが良ければいい」という考え方を持ちやすい傾向にあり、NECが重視する価値観「インテグリティ(高い倫理観と誠実さ)」に反するので、その時点で明確にNECのカルチャーとは合わないことが分かります。リファレンスチェックの導入前よりも、候補者がNECにマッチしているかどうかを見極められていると感じています。なかには「リファレンスチェックがあるなら選考を受けたくないです」という風に辞退意向を示す方もいらっしゃいますが、それはNECのカルチャーに合わなかったということ。ミスマッチであることが早めに分かるのは、お互いにとって良いことだと思うんです。また、実際のデータとしては、リファレンスチェックの導入後も応募者数は変わらず、計画通りの人数を採用できています。前田:選考時点でNECの価値観と合わない人を見極めることも重要ですが、それ以上にリファレンスチェックは候補者が入社後により活躍するための材料を得るツールとして使っている側面が強いです。大橋:私が最終面接に同席した際、面接官には「入社いただくことだけがゴールではない」と伝えるようにしています。入社はあくまでスタートであり、大事なのは入社後にパフォーマンスを早期に発揮して活躍いただくこと。そのために、「候補者がこういう人である」ということが分かっていれば必要なサポートを提供し、マネジメントもしやすくなります。その情報を収集するために実施しているのが、リファレンスチェックです。NECならではの使い方などありましたらお聞かせください。大橋:導入から1年ほどは「まずは使ってみよう」ということで、シンプルな使い方をしています。今後はリファレンスチェックのデータと入社後の活躍度合いなどのデータを見ながら少しずつカスタマイズしていき、NECグループが共通で持つ価値観であり行動の原点となる考え方をまとめた『NEC Way』に沿うような質問項目も入れていけたらと考えています。前田:リファレンスチェックを候補者に依頼すると、基本的には元上司や元同僚、現職の上司や同僚に打診し対応いただくことになるのですが、みなさんとても丁寧に書いてくださるんです。リファレンスチェックを通して、候補者がこれまでに良い人間関係を築いていたことが分かる。今後は『NEC Way』に沿った質問項目を加えることで、よりNECにフィットする人を増やしていけたらと思います。キャリア採用で起きた変化、リファレンスチェックをもっと当たり前にキャリア採用の人材が増えたことで、会社のカルチャーに変化はありましたか?大橋:想定していたよりも多く変わりましたね。新卒で入社した社員や、出戻ってきた社員たちからは「自分が知っている会社ではなくなっている」という声をよく耳にします。まだまだ、昔ながらの部分もたくさん残っていますが、昔と比べると会社と従業員の関係性は大きく変わりました。ひと昔前は会社から与えられた仕事を、与えられた権限の範囲で粛々とこなし、年次が上がるとほとんど自動的に昇格していくシステムでした。ただし、今は仕事の成果がシビアに評価されますし、もし成果を出せていないのであれば評価も下がる。このように、全員が対等な基準で評価されるようになっています。また、服装に関しても昔は「ジャケット着用が当たり前」という感じでしたが、今はそんなことはありません。ずっとNECでキャリアを積んできた社員から見ても、そういったところは大きく変わったと思う部分ではないでしょうか。私自身、NECに入社する前は「絶対にカルチャーが合わない」と思い不安も感じていたのですが、入社後は思っていたほどのズレはありませんでした。前田:NECのキャリア採用“あるある”なのですが、ほとんどの人が入社前は「NECのカルチャーは自分には合わないと思う」と不安を抱くんですよね(笑)。私もそうでした。でも、入社したら全然そんなことはなくて。「堅苦しそうだな」という事前のイメージは、良い意味で裏切られましたね。最後に、今後の展望について教えてください。大橋:NECは2021年5月に「2025中期経営計画」を発表しており、そこでは新卒採用とキャリア採用の割合を1対1にすることを掲げています。2017年度のキャリア採用の人数は55名でしたが、タレント・アクイジションチームの発足とともにキャリア採用のアクセルを踏み、2021年度には619名まで採用数を増やすことができ、新卒採用の人数と同じ割合にすることができました。数字だけを見ると目標数値を達成することはできていますが、各事業部からの「採用したい」という声を踏まえると、980名くらいまで採用数を増やしていかないといけないので、まだまだ満足してはいけないという感覚です。またNECのことを転職先として検討・認知していない潜在層に対するアプローチも足りていないので、採用の課題感はまだまだあります。やるべきことはたくさんありますが、リファレンスチェックを活用することで採用の精度を高めることができました。その経験からも、日本でもっとリファレンスチェックが当たり前に使われるようになるべきだと思います。いまだに日本では転職活動は秘密裏に誰にも言わず、内定が決まったら会社や上司に報告すると裏切られたという話になることがあります。そうではなく、もっとオープンにキャリアの選択ができるようになるべきだと思います。そうすると求職者は堂々と自分のやりたいことや目指すキャリアを日常的に言葉にし、受けたいと思った会社を受けに行くようになるはず。今後はそういった世の中の実現にも寄与していけたらと思います。(左から人材組織開発統括部 タレント・アクイジショングループ ディレクター 大橋康子氏、同グループ シニアリクルーター 前田幸代氏)大橋さん、前田さん、本日はありがとうございました!