鈴木 仁志
株式会社ハッカズーク
代表取締役CEO
カナダのマニトバ州立大学卒業後、アルパイン株式会社を経て、T&Gグループで法人向け営業部長・グアム現地法人のゼネラルマネージャーを歴任。帰国後は人事・採用コンサルティング・アウトソーシング大手のレジェンダに入社。2017年アルムナイに特化して事業を展開するハッカズークを設立。アルムナイ研究所の研究員も兼任。
Introduction
人材をひとつの“資本”として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値の向上に繋げていく、いわゆる「人的資本経営」に近年大きな注目が集まっている。人的資本経営は従業員のエンゲージメント向上による生産性の最大化に加えて、社外の人的資本である「アルムナイ(退職者、卒業生)」ともつながりを構築し、社内外の人材により構成された強い人材ポートフォリオを作ることも重要な取り組みのひとつになっている。
例えば、欧米の企業では昔から「アルムナイ」を貴重な人材リソースと捉えて交流を持ち、組織化しており、そこから再雇用する「アルムナイ制度」が一般的なものとなりつつある。
日本でも2022年8月に政府が「人的資本可視化指針」を公開し、2023年から有価証券報告書での人的資本開示が義務化されたことから人的資本経営に取り組む企業が増え、アルムナイとの関係構築に対する関心も高まりつつある。では、具体的にどう進めていけばいいのか。
今回、退職後もCRM(顧客関係管理)のようにアルムナイとコミュニケーションが取れ、クローズドなSNSでアルムナイ同士も繋がれるシステム「Official-Alumni.com」を提供するハッカズークの鈴木仁志氏にアルムナイとの関係構築の重要性、そしてコミュニティ形成・運営のポイントなどについて話を聞いた。
労働人口減少の中で高まる「アルムナイ」の重要性
鈴木:背景にあるのが産業構造の変化と人材の流動化で、その中でスタートアップの台頭も影響しています。VC(ベンチャーキャピタル)などが“新興勢力”であるスタートアップにリスクマネーを供給するようになり、この10年ほどで日本でもスタートアップの存在感が増してきました。
その結果、スタートアップの年収レンジも上昇。日本経済新聞社が2021年に実施した「NEXTユニコーン調査」によれば、有力スタートアップの平均年収は630万円という結果が出ており、2020年時点での上場企業の平均年収は603万円という東京商工リサーチの調査結果と比較すると、その差はほとんどなくなりつつあります。こうした変化もあってか、ここ数年で大手企業からスタートアップに転職する人の割合も増えているのです。
こうした変化は、1970年中頃から1980年代前半にかけてアメリカでも起こりました。当時、“巨大勢力”だったIBMなどの大手企業では終身雇用の考えに基づく人事制度が一般的でしたが、“新興勢力”であるスタートアップが台頭した際に、よりパフォーマンスが発揮できる環境を求めて多くの若い優秀な人材がスタートアップに流出してしまったんです。同じようなことが他の企業でも起きたことから、産業構造の変化と人材の流動性が高くなったIT業界を中心に、アルムナイとのつながりを大切にする企業が増えていきました。もちろん転職先はスタートアップに限りませんが、そういった変化も含めた人材の流動化が日本でも顕著になり、アルムナイの重要性が高まりつつあるのです。
とはいえ、重要性を認識する企業が増え始めたのはここ最近のことです。それこそ、数年前までは企業にアルムナイの説明をしても「意味が分からない」というような反応ばかりでした。人材の流動性がこれだけ高まっているにもかかわらず、日本企業にはまだ退職者を“裏切り者”のように扱う慣習が残っています。いまだに辞めることがわかった途端に、上司が感情に任せて高圧的な態度をとったり、企業にネガティブな感情を抱いたまま去っていったり、という話もよく耳にします。そうした悪しき慣習を変えていきたいという思いから、アルムナイ専用のクラウドシステムを開発し、コンサルティングと合わせて企業に提供をしています。
鈴木:企業側は、入社してくれた社員に対して「なるべく辞めないでほしい」と思うのが正直なところです。時間とお金をかけて育ててきたわけですから。最後まで働き続けてほしいのが本音だと思いますが、これだけ人材の流動化が進んでいる中で、全ての人が定年退職まで同じ企業で働き続けるのは難しい。企業側も考え方を変えなければいけません。
従来の考え方では、雇用契約に基づいて社員の可処分労働時間を自社のために100%使ってもらう「フルタイム正社員雇用」が当たり前とされてきました。それではキャリアの選択肢において企業に残るか、縁を切って辞めるかの2択しかない。退職によって関係性がゼロになってしまう恐れがあり、それまでの投資を回収する可能性が失われるかもしれないと思ってしまうからこそ、企業は何とかして辞めないように働きかけをするわけです。
ただ、副業や兼業がこれだけ一般的になってきているのですから、退職者と何かしらの関係を維持し続けることは可能です。例えば業務委託契約を結び、可処分労働時間の30%を自社のために使ってもらうといったこともできるでしょう。そうすれば、それまでの投資を無駄にすることなく、自社の価値創造につなげていくことができると思います。
自社で活躍してもらうために投資をした人材をストック化することで、その投資から、より長く、より多くのリターンを得られるチャンスが広がる。企業がアルムナイとの関係構築をする本質的な価値は、ここにあります。具体的なリターンとしては、アルムナイの再入社・再雇用のほか、業務委託、協業や提携などが挙げられるでしょう。また、アルムナイと良い関係を築くことで採用ブランディングや従業員エンゲージメントの観点でも、離職率の改善やアルムナイとの交流による社員の能力開発といった良い効果も期待できます。
鈴木:間違いなく効果はあると思います。ただ、勘違いしないでほしいのは「アルムナイ=再入社・再雇用」ではない、ということです。アルムナイとの関係構築の目的は「人材のストック化」であり、その先にある指標のひとつとして再入社や再雇用があります。アルムナイとの関係構築の目的は企業によってさまざまです。
そうした中で、アルムナイの再入社や再雇用が大きく注目を集めているのには2つの理由があります。まずは、あらゆる企業で慢性的な“人不足”に陥っているからです。労働力人口の減少が進んでいく状況下での採用難易度は高くなる一方です。そうした背景から、自社で一度働いた経験を持つ人材を再び採用する選択肢を視野に入れる企業が増えています。2020年9月に「人材版伊藤レポート」が公表されて以降、日本国内でも「人的資本経営」に関する注目度が高まっており、より一層、再入社や再雇用への関心が高まっています。
また、もうひとつの理由がビジネスのライフサイクル、スキルのライフサイクルがどんどん短くなっているということです。これだけ変化が激しい時代だからこそ、その時々で求められるビジネス、必要となるスキルは頻繁に変わっていきます。企業が目指す方向性や個人のやりたいことも社会の変化に合わせて常々変わっていくので、企業と個人の間でもその時々で「合う・合わない」というのが出てくる。そうなると、イノベーション人材と呼ばれるような人ほど異なる環境や機会を求めて転職するわけです。今まではそこで退職者との関係は切れてしまっていたのですが、きちんとアルムナイと関係構築をしておけば、もう一度お互いの目指す方向とやりたいことが合致したときに戻ってきてくれるかもしれない。変化が激しい時代だからこそ、企業はアルムナイと関係構築をし、いろんな可能性を模索していくべきだと思います。もちろん、企業側がメリットを得るためにはアルムナイにとってもメリットがある関係にすることが大前提です。
鈴木:日本はまだまだ“辞め方”が良くないと思っています。これには個人側の”辞め方”と企業側の”辞められ方”の両方を含みます。だから企業とアルムナイがつながりづらいんです。その状況を改善するために、私は「辞め方改革」という言葉を発信しています。
なぜ、辞め方が良くないのか。その理由のひとつが企業との“心理的契約”です。「終身雇用」を前提とした人事制度においては、入社したらずっと同じ企業で働き続けるというのを約束させられているようなものですし、企業側も一生面倒を見るというつもりでいる。
企業側としては「最後まで一緒にいる」という心理的契約を結んだと思っているからこそ、社員が「辞める」となったときに「裏切り者」と思ってしまうんです。そして、社員が企業のそうした態度に反感を覚えてしまう。その結果、喧嘩別れのようになってしまいます。そこで企業と個人の関係が切れてしまうのは勿体ない。
だからこそ、私たちは「辞め方改革」を促進しています。ただ、一点補足したいのは、社員としてのエンゲージメントが高くないのに退職することが分かった途端に「これからも仲良くしよう」と急に変わるのは間違いです。あくまで、求職者が入りたい企業も、入社後に社員が働き続けたい企業も、辞めてからもつながっていたい企業も、すべて同じであるべきというのは忘れないようにしましょう。
採用競争力を上げる、アルムナイとの関係構築
鈴木:少し前で言えば、新しいことに感度が高い人が旗振り役となり、「こういう面白い考え方があるぞ」と言ってアルムナイとの関係構築を進めていくのが一般的でしたが、最近は経営層にもアルムナイとの関係構築の重要性が理解され、トップダウンで進むことも多いです。
在籍期間だけ大切にし、辞めることがわかったら縁を切るという付き合い方をしてしまうと、企業のブランディングにも良くないですし、採用競争力もなくなってしまいます。
では、アルムナイと関係構築をするにあたって何から始めていくべきか。まずは「今アルムナイと関係構築することが企業にとって必要なのか、そして、アルムナイにはどんなメリットがあるのか」をしっかり言語化することが大事です。ここをきちんと行わなければ、結果的に上滑りの施策になってしまいかねません。
その後、アルムナイ側へ提供するメリットのひとつとしてコミュニティを作っていきます。よくアルムナイのコミュニティとして、有志のFacebookグループを作成することがあるのですが、それだと知っている人たちだけで繋がってしまい、それ以上の繋がりに広がっていかなかったり、企業や社員との連携が弱いために尻すぼみになってしまうことが多いです。それとは別に、アルムナイが自分自身で情報を登録できるアルムナイのためのシステムを企業主導で用意して、企業からの情報や構造化された名簿へのアクセスを提供すると、想像以上に多くのアルムナイが「古巣とつながりたい」と思ってくれていることに驚くと思います。
鈴木:「属人的にしない」ことが大切です。コミュニティマネージャーを1人だけ立てて、「運営をお願いします」ということがあるのですが、それは良くありません。特定の誰かに運営をお願いするのではなく、数人に運営をお願いする方が機能しやすいですね。
そして、コミュニティの目的をきちんと発信すべきです。どういう目的を持って、この場所を用意したのか。それをきちんと伝えなければ、後々運営の方向性がブレてしまいますし、コミュニティに入っているアルムナイも何が求められているのか分からなくなってしまいます。例えば、「アルムナイのコミュニティ構築が再入社・再雇用のためだけではない」ことを伝え、ビジネス上の協業や提携ができたり、アルムナイ同士のつながりもできたりすることを理解してもらえれば、社員も積極的にコミュニティの存在を拡散してくれるでしょう。
また、自分は「Something for Everyone」と言っているのですが、企業を退職した後の立場や肩書き、属性などはみんな変わっていますし、アルムナイコミュニティに求めるものや温度感も様々です。多様な人たちが集まっている場であることを理解し、みんなにとって何か来るべき理由がある状態にしておくことが大切です。
鈴木:アルムナイとの関係構築とリファレンスチェックは目指す世界観が似ていると思っています。今の時代、企業と個人の関係は辞めたら終わりではなく、ずっとゆるく繋がっているものです。リファレンスチェックが浸透していくことで、退職者も“飛ぶ鳥跡を濁さず”ではないですが円満な辞め方をするようになり、企業も“裏切り者”のような扱いをしなくなる。そうすれば、お互いにきちんと誠実に、ずっと繋がっている前提で関係性を構築できるようになる。自然とアルムナイのコミュニティ形成も加速していくはずです。
採用におけるリファレンスチェックの必要性はすごく高いと思っています。一方で、リファレンスチェックを効果的に実施する為には準備が必要です。リファレンスチェックの意図をきちんと伝えたほうが良いと思います。本来は企業との相性が合うかどうかを確認したいだけなのに、「リファレンスチェックをする」と言うと「私のことを疑っているのかな?」と思われてしまうこともあります。あとはリファレンスチェックの質問設計は、回答者を考慮して慎重に行う必要があると思っています。
曖昧な質問を設計してしまうと、聞きたい情報が聞き出せない。また、回答者が「依頼者にネガティブなことを言わないように」と気を遣ってしまうと、その人が企業に合っているかどうかが分からなくなってしまいます。その点、アルムナイの人たちは一緒に働いていた経験があるので、依頼者のことをよく知っている。今後、転職するにあたって過去に勤めた企業のアルムナイにリファレンスチェックを依頼できるくらいに良い関係で繋がっておくことは大事になっていくでしょう。その上で構造的に設計された質問のスクリプトが用意されていて、より効果的な質問をできるようになると、すごく良い効果があるのではないかと思います。
鈴木:再入社・再雇用だけに限っていえば、退職から再入社までの期間に仕事をしていた環境は異なるので、その期間に関してのリファレンスチェックは効果を発揮すると思います。退職後の環境におけるスキルアップや活躍を、企業が正しく知ることが出来るのは良いことです。ただ、再入社・再雇用に関しては、その人の特徴や価値観などはすでに把握しているわけですから、通常の新規採用と比べるとリファレンスチェックの重要性は少し低いかもしれません。
また、リファレンスチェックが浸透していき、第三者からの回答などを通して個人の自己認識が高まり、「私はこういう環境で、こういう高いパフォーマンスを発揮できた」「私はこういう環境だと、逆にパフォーマンスを発揮できない」ということを候補者自身が企業に対して言えるようになったら良いですよね。それによって、企業と個人が適切に相性を判断でき、採用のミスマッチも少なくなります。そんな世界を実現するためにもリファレンスチェックは重要な役割を担っているので、もっと普及していってほしいなと思います。
ハッカズークでは、一緒に働くメンバーを募集しています!
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