目次採用における面接官の役割まずはじめに、企業の採用活動における面接官の役割について整理しましょう。面接官には大きく3つの役割があります。1.候補者の本当の姿を引き出し、自社で活躍できるかを見極める役割1つ目は、自社で採用するべき人物かを見極める役割です。選考書類や面接の場での回答は予め用意することができるものが多い分、候補者が評価を得るために本来の自己の働きぶりとは異なる回答をしたり、虚偽や過大な申告が含まれている可能性があります。面接での対面コミュニケーションにより内容を深堀り、候補者の行動特性の実態を適切に引き出すことが面接官の重要な役割です。2.採用したい人材に自社を魅力づけして入社に導く役割2つ目は、採用したい人材へ自社の魅力づけをする役割です。候補者にとってその企業の唯一の窓口になる面接官の言動や印象は、候補者が最終的に入社を決意する際の大きな決め手となります。見極めに必死で一方的な質問をするのではなく、言葉遣いやニュアンスを工夫しながら自社や面接官本人に良い印象を持ってもらうことが、候補者が選考通過後に入社の意思決定をする大きなカギになります。ただし面接官が会社の魅力づけを意識するあまり、入社後に面接官の話と実態が乖離しているなどの理由でミスマッチが起こり、トラブルや早期退職が発生してしまっては意味がありません。面接官は嘘偽りなく適切に会社のカルチャーや業務、待遇について説明する必要があります。関連記事:ミスマッチとは?採用ミスマッチの原因とミスマッチによるリスクを解説3.候補者に企業のポジティブな印象を与える役割3つ目は、会社の印象を左右する「広告塔」としての役割です。候補者が入社すれば自社の社員になりますが、選考を通過しなかったり、通過したとしても候補者自身が入社を決めるとは限りません。面接で与えられた企業のイメージがそのまま、一般消費者としての企業イメージとなるため、面接官はその企業の代表としての自覚を持ち、選考の結果に関わらず、企業として候補者にポジティブな印象を持ってもらえるように振る舞う必要があります。例えば、面接に来た候補者が明らかに不合格だった場合、面接を早々に切り上げたり、話を聞いていない素振りをする面接官が稀にいます。しかし、そのような対応は候補者に良い心象を与えないでしょう。最悪の場合、SNSで拡散され、企業や事業に大きなダメージを与える可能性もあります。面接官は会社の顔としての意識を欠いてはならないのです。構造化面接とは構造化面接とは、臨床心理学におけるアプローチのひとつで「自社の採用要件を明確にしたうえで、あらかじめ評価基準と質問項目を決めておき、マニュアル通りに実施していく」という面接手法です。見極めの判断基準が曖昧であったり、面接官が主観で質問と評価を行ったりといった面接における問題を解消することが目的でGoogleなどの有名企業でも導入されています。【図解付き】Googleも採用している「構造化面接」についてまとめました非構造化面接・半構造化面接との違い面接がマニュアル化されている構造化面接に対して、細かなルールを設けずに面接官が自由に面接を行う手法を「非構造化面接」と言います。構造化されていないがゆえに、面接官による面接内容の差が生じやすくなる傾向があります。非構造化面接では、面接官の聞きたいことに終始して「想定質問」や「誘導質問」がたびたび起こります。想定質問想定質問とは、候補者が事前に準備できる質問のことを指します。例えば、「志望理由はなんですか」「強みと弱みはなんですか」といった典型的な質問が挙げられます。候補者はこれらの質問に対して回答を準備して面接に望んでいる場合が多く、面接で見せる姿や言動が本心ではない可能性があり、候補者の能力が見えづらくなります。誘導質問誘導質問とは、企業側が期待している答えが相手に伝わってしまう質問のことです。「地方で働くことは可能ですか?」といった質問は、「地方に行ってほしい」という企業の希望が暗に伝わってしまうため、候補者は、本心とは異なる回答をしてしまうことがあります。誘導質問は候補者の本音は見えにくく、見極めが難しくなります。また、同じ質問を決まった順番で行ったのち、面接官が自由に質問する「半構造化面接」という面接手法も存在します。構造化面接に比べて候補者の人柄や価値観を理解しやすい反面、非構造化面接と同様に評価がズレてしまうリスクがあります。【お役立ち資料】優秀人材を逃がしてしまう面接担当者 3つのNG構造化面接のメリット構造化面接には、以下のようなメリットがあります。採用のミスマッチを防ぐことができる複数人の採用に対し、統一した基準で客観的に評価できる面接の時間を短縮できるそれぞれ詳しく見ていきましょう。採用のミスマッチを防ぐことができる面接官による評価のズレによって、優秀な人材を逃してしまったり、反対に期待に反した人材を採用してしまうリスクを低減することができます。複数人の採用に対し、統一した基準で客観的に評価できる一度に複数名の面接官が面接を行う場合でも、面接官のスキルや経験に左右されない面接を行うことができ、面接官による評価のばらつきを抑えることができます。面接の時間を短縮できる実際に構造化面接を実施しているGoogleの調査によると、1 回の面接で平均 40 分もの時間を短縮できているそうです。構造化面接は、面接官の負担軽減にもつながります。参考|ガイド: 構造化面接を実施する - re:Work - Google構造化面接のデメリットご紹介したメリットがある一方で、構造化面接には、以下のようなデメリットもあります。準備に時間とコストがかかる魅力づけ・動機付けが難しいそれぞれ詳しく見ていきましょう。準備や更新に時間とコストがかかる次の章で詳しくご紹介しますが、構造化面接を実施するには、質問の設計や評価基準の設定などの事前準備が必要です。これまでに構造化面接の経験がない面接官であれば、面接官のトレーニングも必要となります。また、部署や職種により、求められるスキルや特性は異なるため、それぞれの部署や職種ごとに構造化面接を設計する必要があります。さらに、過去に構造化面接を受けた候補者が、他の候補者に質問内容を漏らしてしまうことで、事前に回答の対策をされてしまう可能性があります。そのため、定期的な更新にも時間を割く必要が出てくるでしょう。魅力づけ・動機づけが難しい最初の章でご紹介した通り、面接官は候補者を見極めるだけでなく、候補者に対して魅力づけを行う役割も求められています。しかし、全ての候補者に決められた質問を決められた順で行っていく構造化面接では、自然な会話の中で自社の魅力をアピールすることは難しく、面接官の人柄も伝わりにくいため「この人たちと一緒に働きたい」という動機も生まれにくいです。構造化面接では見極めに徹して、別のタッチポイントを設けたり、最終面接では魅力づけに注力したり、選考フローの工夫が必要になります。構造化面接を実施する4ステップ具体的には以下のようなステップで面接を設計し、全ての面接官が同じ評価基準のもと公正に採用合否を判断できるように評価項目・基準をきちんと定めておくことが重要です。STEP1.自社の採用基準を明確にし、評価項目・評価基準を設定する面接では、具体的に何を評価するのかの評価項目だけでなく、どのように評価するのかの評価基準を設定することが大切です。評価項目・評価基準は自社がどのような人材を採用したいのか、採用基準を具体的かつ明確にする必要があります。関連記事:採用基準の決め方とは?採用基準の作り方と採用基準を決める際のポイントSTEP2.起点となる質問をする評価したい項目に沿って質問をします。例えば「計画力」という評価項目を採用における重要指標とした場合には、「プロジェクト計画が功を奏し、成果を収めた経験についてお聞かせください」など、候補者が持つ計画力についての話題を促します。STEP3.質問をして掘り下げる評価項目・評価基準に沿って、より深く起点となる質問に対する回答を深く掘り下げていきます。STEP4.評価項目ごとに4~5段階の評価基準を策定し、面接合否を判定する「非常に良い」「良い」「普通」「悪い」などのように評価基準を区分し、その判断基準も明文化しておきます。構造化面接での質問例構造化面接は「行動面接」と「状況面接」の2つの質問の組み合わせによって行われます。それぞれ詳しく見ていきましょう。行動面接行動面接とは、候補者の過去の行動について質問を行い、候補者の能力やパーソナリティについて見極めることを目的としている面接です。構造化面接を実施する4ステップで解説した、起点となる質問をもとに、当時の状況(Situation)、当時の課題(Task)、とった行動(Action)、得られた結果(Result)について掘り下げて聞いていきます。行動面接はこれらのアルファベットの頭文字をとって「STAR」面接と呼ばれています。具体的には、各項目について以下のような質問をします。状況(Situation)チーム体制について教えてくださいチームでの役割はなんでしたか?どのような責任や権限をもっていましたか?当時の課題(Task)ゴールはなんでしたか?課題のきっかけと大きな要因はなんでしたか?課題にはいつ気づきましたか?いつまでに解決する必要がありましたか?とった行動(Action)どのような計画をとりましたか?どのような行動をとりましたか?どのようにまわりを巻き込みましたか?嬉しかったことはなんですか?得られた結果(Result)課題をどのように解決しましたか?計画どおりに行かなかったことはなんですか?改善点はありますか?状況面接状況面接とは、状況面接では仮説に基づいた質問をします。「もし〜という状況だったら」という仮説のもと、経験に裏打ちされた候補者の力量を測っていきます。たとえば「もしあなたか弊社の事業のマーケティング責任者になったとしたら製品の認知を倍増にするためにどのような取り組みをしますか。これまでの経験を踏まえておしえてください」など、教科書通りの回答ではなく自身の経験を元にした回答をしてもらうことで、これまでどのような思考プロセスで意思決定をしてきたかを知ることができます。構造化面接を実施する際の注意点と対策構造化面接の導入には、大きく2つの注意点があります。あらかじめ用意された質問に沿って情報を得ていくため、候補者の新たな側面を見出したり、自由な発想を発見することなどが難しい候補者が面接で述べる内容を誇張している可能性があり、話の信憑性に疑問が残る構造化面接を実施しつつも、上記の懸念を払拭するための別の手法を選考の中で組み合わせると良いでしょう。対策:リファレンスチェックを組み合わせ客観的に見極める上記の構造化面接の懸念点を克服し、客観性を担保しながら候補者の能力を見極めるために、構造化面接と「リファレンスチェック」の組み合わせをおすすめします。リファレンスチェックとは書類選考や面接では分からない、候補者の人物像や、前職の仕事ぶりを同僚や上司といった第三者に確認することをいいます。構造化面接とリファレンスチェックを組み合わせることで、候補者の思考から第三者からみた候補者の人となり、仕事ぶりを知ることができ、新たな側面の発見が可能になります。関連記事:【企業向け】リファレンスチェックとは?リファレンスチェックのやり方と内容を解説構造化面接の導入を検討する際のよくある疑問ここまで、構造化面接のメリットや実施方法をお伝えしてきましたが、実際に自社で取り組もうするといくつか疑問が出てきます。ここではよくある質問4つについて解説していきます。構造化面接はどの程度効果的ですか?フランク・L・シュミットとジョン・E・ハンターは、採用における人材の評価方法ごとに、将来の職務遂行能力がどれほど予測できるかの研究を行いました。85年間分のデータの研究の結果、仕事のパフォーマンスとの相関係数は構造化面接が0.51であり、相関関係があると言えるのに対し、非構造化面接の相関係数は0.38でした。構造化面接の結果が将来の仕事のパフォーマンスを予測するのに効果的と言えます。参考:Schmidt, F. L. and Hunter, J. E.(1998)”The Validity and Utility of Selection Methods in Personnel Psychology”導入にはどれくらい時間がかかりますか?面接の範囲や職種の複雑さにもよりますが、1〜3ヶ月は見込んでおくと良いでしょう。質問を設計した後、設定した質問内容の有用性を調べるためにパイロットテストを実施し、質問をブラッシュアップする期間も設けておくとより良い構造化面接が実施可能です。質問を設計した後、面接官をトレーニングする時間が必要な場合もありますので、余裕を持って取り組み始めましょう。特に専門職の場合は質問の設計までに時間がかかる可能性が高いです。どのような企業が構造化面接を導入すべきですか?向いていない企業はありますか?構造化面接の導入により、多くの企業でメリットを享受できるでしょう。中でも、構造化面接の導入が特に向いている企業は次のような企業です。 一貫性・公平性・多様性を重視する社風の企業構造化面接は、全候補者に対して一貫した質問と評価基準を適用するため、一貫性・公平性を重視する企業文化と相性が良いです。多様な価値観を持つ候補者をバイアスに陥らず公平に評価できるため、多様性を推進したい企業にも向いています。複数の面接官で大量採用を行う企業事前準備の段階では時間がかかるものの、実施の運用の際は面接や評価にかかる時間を短縮することができます。面接官ごとのばらつきを防ぎ、採用基準を明確にすることで効率的な選考を実現可能です。 高い離職率に課題がある企業構造化面接を導入することで、候補者の職務適性や組織文化への適合度を正確に見極められるため、採用ミスマッチを減らすことができます。一方で、以下のような場合は構造化面接に向かない可能性があります。急な採用ニーズに対応する必要がある企業構造化面接は事前準備に時間がかかるため、急速に採用を進めなければならない状況では、即時性の高い手法を選ぶべきでしょう。技術スキルや創造性を重視する企業アーティストやデザイナー、エンジニアなどの職種を採用する際、ポートフォリオやコーディング試験を重視し、面接が補足的な役割しか果たさない場合があります。その場合は時間をかけて構造化面接の設計を行っても利点が薄れる可能性があります。構造化面接は候補者にどう思われますか?対話形式である非構造化面接に比べ、画一的な質問を行うのみの面接官に対し、候補者から「冷たい」「堅苦しい」と感じられてしまうのではないかと疑問に思うこともあるでしょう。しかし、Google社の調査によると、構造化面接は非構造化面接に比べ、応募者の満足度が向上しているのです。透明性の高い採用プロセスであるため、候補者は「公平で偏りがない」「実力で評価されている」とポジティブに捉えるケースが多いと言えるでしょう。参考:構造化面接を実施する | Google re:Work構造化面接の設計に役立つ書籍3選構造化面接の設計を行う際に役立つ書籍を3点ご紹介します。人材を逃さない見抜く面接質問50 / 著:キャロル・マーティン「構造化面接を実施する4ステップ」の章でご紹介した通り、構造化面接の実施には、事前に質問を考えておく必要があります。しかし、どのような質問をすれば候補者の本質を見抜くことができ、どんな深掘り方をすれば「事前に練習してきた答え」ではなく「候補者の本当の答え」を引き出すことができるのでしょうか。その答えを得ることができるのがこちらの1冊です。紹介されている質問例をそのまま自社の面接に活かすことが可能です。参考:人材を逃さない見抜く面接質問50構造化された面接: 採用の不一致をなくすアメリカ式の新しい採用面接 / 著:人事と心理編集部 構造化面接を行うための情報を体系的に学びたい場合にはこの1冊がおすすめです。なぜ構造化面接を行うべきなのか、どのように構築したら良いのか、といった基礎から、具体的な質問例、面接官のトレーニング例といった実践的な内容まで解説されています。付録として構造化面接を実装するチェック表や、評価シートのサンプルなどがついているので、自社でもすぐ構造化面接に取り組み始めることができるでしょう。参考:構造化された面接: 採用の不一致をなくすアメリカ式の新しい採用面接これで採用はうまくいく ほしい人材を集める・見抜く・口説くための技術 / 著:安藤健,曽和利光 採用担当に配属されてまだ間もない方におすすめなのはこちらの一冊です。採用活動全般に関する実践的なガイドブックであるため、人材を「集める」「見抜く」「口説く」一連の採用術を学ぶことができます。その中で面接に関しては構造化面接が推奨されており、非構造化面接ではどんな先入観や無意識の偏見に陥ってしまうのかが解説されています。参考:これで採用はうまくいく ほしい人材を集める・見抜く・口説くための技術まとめ構造化面接法では面接官のスキルや経験に左右されない面接を行うことができ、面接官による評価のばらつきを抑えることが可能です。全ての面接官が同じ評価基準のもと公正に採用合否を判断できるように評価基準を明確化することで、優秀な人材を逃してしまったり、反対に期待に反した人材を採用してしまうリスクを低減することができます。ただし、構造化面接では候補者が話している内容の信憑性は分からないため、リファレンスチェックを組み合わせ、客観的な情報も含めて候補者を見極めることが重要です。back check(バックチェック)では、Web上で候補者の情報を登録するだけで、リファレンスチェックを簡単・低価格で実施できます。導入企業様が個人情報保護法に該当しないよう入念に設計されており、実施に経験がない方や、利用方法や運用に不安をお持ちの方にも、簡単な操作ですぐにご利用いただけます。