目次経歴詐称・学歴詐称とはまずは経歴詐称や学歴詐称の基本を抑えていきましょう。経歴詐称や学歴詐称の意味を明確にし、経歴や学歴を申告する重要性を解説します。経歴詐称・学歴詐称の定義経歴詐称とは、職務経歴に関する虚偽の情報を記載する行為を指します。具体的には、勤務先、雇用形態、職務内容、在籍期間、転職回数、資格、役職などを偽る行為がこれに該当します。一方、学歴詐称とは、自身の学歴に関して虚偽の申告を行うことを指します。これは、実際よりも高い学歴を装うケースだけでなく、逆に学歴を低く見せるケースも含まれます。例えば、「高校卒業」を「大学卒業」と偽ることはもちろん、「大学卒業」を「高校卒業」とするケースもあります。後者は、特定の採用基準に適合するために行われることがあり、いずれも詐称に該当します。関連記事:経歴詐称をした人の末路は?候補者が経歴詐称をする理由履歴書や職務経歴書における記載の重要性履歴書や職務経歴書は、採用の意思決定を行う上で極めて重要な資料です。企業は、これらの情報をもとに応募者のスキルや経験が自社の求める人材と適合しているかを判断します。そのため、履歴書や職務経歴に虚偽の内容が含まれていると、誤った情報を前提に選考を進むことになり、適切な採用判断ができなくなってしまいます。経歴詐称・学歴詐称で問われる責任経歴詐称や学歴詐称が発覚すると、企業だけでなく、詐称した本人にも重大な影響を及ぼします。企業は、求めていたスキルを持たない人物を採用することで業務遂行に支障をきたし、組織全体の生産性が低下する可能性があります。さらに、職場の信頼関係が崩れることで、他の社員にも悪影響を及ぼしかねません。この章では、経歴詐称・学歴詐称によって問われる可能性のある責任について解説します。詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させる犯罪です(刑法第246条)。金銭目的で経歴を詐称し、通常では発生しなかった対価(例えば、医師や弁護士のように高度な資格が契約の条件となる職種で、資格手当などその資格に対して支払われた場合など)を受け取っていた場合には、詐欺罪が成立する可能性があります。文章偽造の罪採用選考の際に提出を求められた書類を偽ると、私文書偽造や公文書偽造の罪に問われる可能性があります。私文書偽造私文書偽造は、行使の目的をもって他人の印章・署名を使用して私文書を偽造することおよび偽造した他人の印章・署名を使用して、私文書を偽造した場合に成立する犯罪です(刑法第159条)。通常、履歴書や職務経歴書では作成名義人を偽ることはないため、私文書偽造罪は成立しないと考えられます。しかし、他人の卒業証明書や資格の取得証明書を自分の名前に書き換えた場合は、私文書偽造罪に抵触する可能性があります。公文書偽造公文書偽造は、行使の目的をもって、公務所・公務員の印章・署名を使用して、公文書・公図画を偽造・変造すること、偽造した公務所・公務員の印章・署名を使用して公文書・公図画を偽造・変造した場合に成立する犯罪です(刑法第155条)。履歴書や職務経歴書は公文書ではないため、公文書偽造罪は成立しないと考えられます。しかし、健康保険証、運転免許証、住民票などの公的な文書を偽造・変造した場合は、公文書偽造罪に問われる可能性があります。軽犯罪法違反軽犯罪法は、日常生活上の秩序違反を規制する法律です。軽犯罪法第1条では「左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。」と定められており、その第15号には、以下の規定があります。「官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者」したがって、公務員でないにもかかわらず、公務員と名乗るなど、官公職にあるように肩書を偽るなどの場合、軽犯罪法違反に問われる可能性があります。民事責任上記の通り、経歴詐称や学歴詐称は刑事事件に発展する場合もありますが、その多くは、民事責任を追及されることが考えられます。例えば、業務と直接関係のある資格を保有していると虚偽申告し、採用されたことで会社に損害を与えた場合、損害賠償請求を受ける可能性があります。また、募集要件として学歴が指定されていたにもかかわらず、虚偽の学歴を申告し、採否の判断に重大な影響を与えた場合、懲戒解雇などの処分が下される可能性があります。経歴詐称・学歴詐称が発覚する経緯経歴詐称や学歴詐称が発覚する経緯はさまざまですが、採用前に発覚するケースは稀であり、リファレンスチェックなどを実施しない限り、多くは採用後に発覚する傾向にあります。本人からの申告や同僚・関係者からの情報提供があれば良いですが、企業が積極的に調査を行わない限り、発覚が遅れることも少なくありません。具体的にどのような場面で経歴詐称・学歴詐称が発覚するか、確認していきましょう。【お役立ち資料】大企業でも安心できない?20人に1人はいる、経歴詐称をしている人材の見抜き方同僚・関係者からの指摘採用後、実際の業務を行う中で、スキルや経験に明らかな不足を感じたり、履歴書に記載された実績と実際の能力に乖離があることに気づいたりした同僚や上司が不審に思うことがあります。採用時に経験者であると申告していたのに、業務分野の基本的なスキルや知識が欠けている場合、疑念を抱かれることが多いです。、このような違和感をきっかけに調査を行った結果、経歴詐称が発覚するケースが考えられます。公的データやSNSによる発覚企業が公的なデータベースを参照した際、申告内容と実際の学歴・職歴の矛盾が判明することがあります。また、採用者のSNS投稿で過去の職歴や学歴について言及していて、その投稿内容と履歴書の内容に矛盾があった場合に調査に発展して発覚することがあります。関連記事:採用でSNSチェックは必要?採用でSNS調査を行う企業が増えている理由と注意点外部からの通報以前の勤務先の同僚や大学関係者から情報提供をきっかけに調査が行われ、詐称が明らかになることがあります。特に、著名な企業や専門職に就いた際、ホームページ等で経歴を公表することがあります。その際、過去の関係者の目に止まり、経歴が実際と異なっていることが発覚し、指摘される場合があるのです。資格や免許の確認時業務を遂行する上で特定の資格や免許が必要な職種では、企業が正式な証明書等の提出を求めることがあります。この際に、業務遂行に必要な資格や免許を持っていないことが判明し、そこから学歴や職歴の詐称が疑われるケースもあります。社内チェックやリファレンスチェック採用プロセスの一環として、企業が候補者の職歴や学歴を確認することがあります。リファレンスチェックや、大学・前職への照会で詐称が判明することも少なくありません。リファレンスチェックとは、候補者の過去の職歴や働きぶり、スキル、実績などを確認するために、前職の上司や同僚などに問い合わせを行うプロセスのことを指します。企業が採用時に実施することで、履歴書や面接での申告内容が正確であるか、実際にどのような業務を担当していたかを客観的に判断する材料となります。関連記事:リファレンスチェックとは?基本的な流れや質問内容について解説経歴詐称・学歴詐称が採用後に発覚した場合の対応採用後に経歴詐称や学歴詐称が発覚した場合、企業は迅速かつ適切な対応を求められます。まず、事実確認を行い、本人に弁明の機会を与える必要があります。その上で、雇用契約書や就業規則に基づき、懲戒処分の可否を判断し、重大な場合には解雇も検討することが考えられます。特に、資格要件に関わる場合は業務遂行能力に直接影響を及ぼすため、厳格な対応が求められます。詳しくみていきましょう。懲戒解雇について懲戒解雇は、制裁として行われる解雇であり、懲戒処分の中で最も重い措置です。通常、解雇予告はなく、退職金も支給されません。また、懲戒解雇となると、再就職時の印象も悪くなり、再就職が困難となる可能性があります。一方で、懲戒解雇は労働者に重大な不利益を及ぼすため、その適法性は厳格に判断されます。企業が懲戒解雇を適用するためには、単なる義務違反ではなく、重大な義務違反があり、企業秩序を現実に侵害したか、またはその実質的危険があることが必要となります。さらに、労働基準法15条との関係では、懲戒事由該当性は同条の「客観的に合理的な理由」に相当し、その存否を「労働者の性質及び態様その他の事情」に則して検討することになります。経歴詐称・学歴詐称と懲戒処分の裁判例経歴詐称や学歴詐称は、多くの就業規則において「重大な詐称」として懲戒事由に該当するものと扱われます。裁判例でも、経歴詐称が使用者による労働力の評価を誤らせ、労使の信頼関係や資金体系・人事管理を混乱させる危険があるとして、実害の発生を問わず企業秩序違反となりうるとし、懲戒の対象となることを認めています(炭研精工事件・最判平成3・9・19労判615号16頁)。関連記事:経歴詐称が発覚した場合、懲戒解雇はできる?判例とあわせて対処法を解説企業が被る損失と対応の課題経歴詐称や学歴詐称が発覚した場合、企業は採用者を懲戒処分にすることも内容次第では可能ですが、その対応には人的コストがかかります。また、企業が採用活動を行う目的は不足した人員を補完するためであり、経歴詐称や学歴詐称が発覚した後には新たに人員を採用しなければならず、そのためのコストや人的リソースが必要となります。よって、企業に対して、大きな損失を及ぼすことは避けられない状況となるでしょう。経歴詐称・学歴詐称を採用前に防ぐために企業ができることここまでで経歴詐称・学歴詐称が実際に起こってしまうことは、企業にとって大きなデメリットであることがお分かりいただけたと思います。それでは、企業は採用前にどのような対策を講じることで、経歴詐称や学歴詐称を防ぐことができるのでしょうか。企業が取るべき対策について、以下を紹介します。履歴書・職務経歴書を慎重に確認まず、候補者が提出した履歴書や職務経歴書に不自然な空白期間や不審な記載がないかを慎重に確認することが重要です。特に、職務経歴の一貫性をチェックし、短期間での転職が多い場合は理由を明確にするためのヒアリングを行う必要があります。また、必要に応じて、記載された資格が実際に取得可能なものか、それぞれの機関に問い合わせることも有効な対策の1つとなります。面接での質問の工夫(具体的な職務内容の掘り下げ)面接では、過去の業務内容について「具体的なエピソード」や「担当したプロジェクトの詳細」を尋ねることで、実務経験の信憑性を確認することが重要です。例えば、どのような課題に直面し、それをどのように解決したのかを深掘りすることで、実際の経験が真実かどうかを見極めることに役立ちます。候補者の回答が具体性に欠ける場合、経歴を誇張している可能性も考えられるため、慎重に判断しましょう。リファレンスチェック・コンプライアンスチェックの活用リファレンスチェックでは、前職の上司や同僚に対し、候補者の勤務実態や実績についての評価を得ることが可能です。これにより履歴書や職務経歴書だけでは把握できない、実際の勤務状況をより具体的にイメージすることができるでしょう。また、近年、リファレンスチェックに加えて、コンプライアンスチェックサービスも導入する企業が多くなっています。コンプライアンスチェックとは、採用時における候補者の申告内容に虚偽の情報がないか、コンプライアンスリスクがないかなどを調査することです。自社での実施も可能ですが、調査すべきデータベースは膨大であり、法律等も関わる複雑な業務となるため、外部サービスの利用がおすすめです。提供する会社によって内容は異なりますが、一般的には反社会的勢力との関係性の有無、経歴調査、保有資格の有無などの調査を行うことが可能となります。関連記事:コンプライアンスチェックとは?コンプライアンスチェックの必要性を解説このように、外部サービスを利用することも、経歴詐称や学歴詐称を採用前に防ぐための有効な手段になりえます。経歴詐称・学歴詐称を未然に防ぐならback check以上のように、経歴詐称や学歴詐称の候補者を採用してしまった場合、懲戒解雇を検討することは可能ですが、企業にとっても大きな影響を及ぼす可能性があります。また、候補者にとっても懲戒解雇は重大な不利益となるため、可能な限り未然に防ぐことが重要です。履歴書・職務経歴書を慎重に確認し、面接での質問を工夫したとしても、完全に経歴詐称や学歴詐称を防ぐことは難しい場合があります。そのため、外部サービスも活用しながら、適切な採用選考を実施できる体制を整えることが大切です。当社では、オンライン完結型コンプライアンス/リファレンスチェックサービス『back check(バックチェック)』を提供しています。候補者の情報をWeb上に登録するだけで、コンプライアンスチェックとリファレンスチェックが簡単・低価格で実施できます。シンプルで分かりやすい画面設計により、初めてご利用の方でもスムーズに導入開始することができます。また、採用候補者の経歴や適正をより把握し、採用ミスマッチのリスクを軽減することにも役立ちます。採用の精度を高め、リスクを抑えたい採用担当者の方は、ぜひこの機会にback check(バックチェック)ご検討ください。