目次採用選考時の面接官の基本的な考え方候補者との円滑なコミュニケーションを図るために、まずは面接官が心掛けるべき基本的な考え方を確認していきましょう。厚生労働省は、採用選考の基本的な考え方として以下の2点を挙げています。応募者の基本的人権を尊重すること応募者の適性・能力に基づいた基準により行うことそれぞれどのような考え方なのか見ていきましょう。参考:公正な採用選考の基本 | 厚生労働省応募者の基本的人権を尊重すること日本国憲法は、全ての国民に対し基本的人権を認めています。基本的人権の中には、「職業選択の自由」が含まれており、誰であっても自分の適性や能力に応じて就きたい仕事を自由に選び、その仕事に就くことに平等に挑戦できると保障されているのです。一方で雇用者には、原則「採用の自由」があります。どのような人物を何人雇い入れるかなどを自由に決められる権利があります。それではどのように選考を行っても雇用者の勝手かというと、そういうわけではありません。考え方のポイントとしては「応募者を一人の人間として尊重し、その尊厳を守ること」です。選考の中で基本的人権を侵すことがあってはなりません。例えば応募者がどんなに高い能力や適性を持っていても、性別や年齢などの差別的理由で選考から除外されるとしたら、それは本来応募者が自由に選べるはずの仕事の機会が奪われてしまっていることになります。面接官が性別や年齢を見て、はじめから不採用とするつもりでおざなりな面接をしたならば、それは「職業選択の自由」を侵していると言えるでしょう。応募者の適性・能力に基づいた基準により行うこと日本国憲法では、基本的人権の一つとして全ての人に「法の下の平等」を保障しています。選考においても人種・信条・性別・社会的身分・門地などに関わらず、差別があってはならないのです。応募者の適性や能力を採用可否の判断基準とする必要があり、「能力は優秀だけれど〇〇出身の人材だから」という理由で不採用としたならば公正な採用選考とは言えません。また、面接官本人がどれだけ応募者の適性で合否を決めたんだと思っていても、差別に繋がる情報を聞いてしまえば、どこかで採用判断に影響を与えてしまいます。例え合否判断が本当に応募者の適性や能力を持ってなされていたとしても、就職差別に繋がる内容を面接で聞いていたとしたら、応募者や第三者はその内容も加味して合否を決めたと思うでしょう。そのため、面接官には「応募者の適性や能力を見極めるために必要な質問だけをする」という考え方が必要であり、就職差別に繋がる内容はそもそも聞いてはいけないのです。面接で聞いてはいけない「不適切な質問」15選前章でご紹介した通り、厚生労働省では、「応募者の基本的人権の尊重」と「適性・能力に基づいた採用選考」を採用選考の基本的な考え方としています。基本的な考え方をふまえ、面接で聞いてはいけない「不適切な質問」を具体的に解説していきます。ここでご紹介する不適切な質問が、大切にすべき基本的な考え方に反していることに気付くかと思います。以下に該当する質問は、面接時に慎重に避けるべき内容として認識しましょう。参考:公正採用選考特設サイト本籍地・出生地に関する質問本籍地はどこですか。お父さん・お母さんのご出身はどちらですか。生まれ・育ちはどこですか。本籍地・出生地に関する質問は、差別やプライバシーの侵害につながる可能性があり、適切ではありません。平成28年12月には、部落差別の解消を推進し、部落差別のない社会を実現することを目的とした「部落差別の解消の推進に関する法律」が公布・施行され、近年は少しずつ解消されつつあるとはいえ、以前は差別やプライバシー侵害の可能性のある地区出身であることを理由に就職・結婚で不利な扱いを受けてきた人が多く存在しました。現在では就職差別を防ぐため本籍地や出生地に関する質問をするのは避けるべきとされているため、注意が必要です。家族・家庭環境に関する質問お父さん(お母さん)はどちらの会社にお勤めですか。ご両親は揃ってご健在ですか。お父さんがご病気とのことですが、病名を教えてください。家族構成や家族の収入、健康状態、職業、離婚の有無などに触れる質問は適切ではありません。養護施設で育った、DVから逃げた経験がある、金銭面で大変な苦労をした…など、養育背景は人により異なります。家庭状況は直接本人の就労スキルに関係がないことであり、回答内容が合否決定に影響を与えることとなれば就職差別につながる恐れがあります。住宅状況に関する質問家の広さはどれほどですか。家はマンションですか、一軒家ですか。ご自宅は持ち家ですか。間取り、部屋数、住宅の種類、近隣の施設など、住宅状況に関する質問もしてはいけません。どんな家に住んでいようとも、本人の能力やポテンシャルに関係がないため、プライバシーの侵害にあたる可能性があります。また、住宅状況に関する質問は候補者の経済状況を推測する可能性があり、慎重な配慮が求められます。「本籍地・出生地に関する質問」の項目でもご紹介した通り、「住んでいる家は実家で、それが差別やプライバシー侵害の可能性のある地区にある」ということを聞き出した場合、部落差別にも繋がるでしょう。生活環境に関する質問同居している人はいますか。ご自宅の周辺にはどのようなお店がありますか。ご両親の介護を行っていますか。生活環境も住宅状況と同じく、候補者の能力に関係がない事項であり、候補者の経済状況を予測できてしまう可能性があります。プライバシーの侵害となる場合もあります。また、「同居家族が多いから残業が難しいのではないか」といった偏見に基づく判断が行われる場合、公正な判断とは言えません。資産・貯蓄に関する質問今の貯金はいくらですか。株やFXなどをしていますか。奨学金を含め、借金がありますか。資産・貯蓄に関する質問も、入社面接において避けるべきです。金銭トラブルを防ぐためについ聞いてしまいたくなる質問ですが、本人や家族の資産状況が就労スキルに関係することはないため、聞くのは避けましょう。とはいえ、中途採用面接であれば前職の年収・待遇を聞くことがあります。自社での労働条件や待遇を検討するのに必要な材料であれば、質問しても問題ありません。思想・信念に関する質問どの政党を応援していますか。何新聞を購読していますか。労働組合についてどう思いますか。思想・信念に関する質問は、憲法で保障されている自由権の1つ「思想良心の自由(第19条)」に属することがらで、基本的には候補者の個人的な価値観や考え方に関する質問をすることはNGです。これらの項目を選考に持ち込むことは基本的人権を侵すことにつながるため注意が必要です。人生観、生活信条などに関する質問人生において最も大切にしていることは何ですか。仕事とプライベート、どちらを優先しますか。どんな生き方が幸せだと思いますか。日本国憲法第14条では、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と定めています。候補者がどのような信条を持っていても、本来自由であることです。これらの信条を理由に採用可否を判断することは基本的人権を侵していると言えるでしょう。宗教に関する質問特定の宗教を信仰していますか。弊社には〇〇教徒が多いですが問題ありませんか。〇〇教徒であっても〇〇をしてもらいますがよろしいですか。宗教に関する質問は、「信教の自由(第20条)」の侵害に該当する可能性があります。必要な配慮を確認する場合でも、基本的には内定後の対応が推奨されます。場合によっては「〇〇教徒だから不合格にされた」と受け取られてしまい、誤解やバッシングを受ける可能性があります。尊敬する人物に関する質問人生で最も尊敬する人物は誰ですか。過去の偉人の中で、最も影響を受けた人物は誰ですか。あなたはなぜ〇〇を尊敬しているのですか。候補者の価値観を知り採用ミスマッチを防ぐ目的や、説明力・説得力を見極める目的で、かつて「尊敬する人物」を聞いてしまう企業もあったようです。しかし、候補者の個人的な価値観や考え方に関する質問と同様に、候補者が誰を尊敬していようとそれは本来自由であり、採用の場であっても侵すことはできません。また、もし尊敬する人物として候補者が特定の宗教関連の人物を挙げた場合、候補者の宗教も知ることになるでしょう。信教の自由も侵すことになりかねません。関連記事:ミスマッチとは?採用ミスマッチの原因とミスマッチによるリスクを解説購読雑誌や愛読書などに関する質問ご自宅でとっている新聞は何ですか。普段どんな雑誌を読んでいますか。あなたは、どんな本を愛読していますか。愛読書なども候補者の個人的な価値観や考え方に関わってくることであり、採用可否に影響があれば思想良心の自由や信教の自由を侵すことに繋がってしまいます。「応募者の興味関心や学びの姿勢を知りたい」という意図なのであれば、購読雑誌や愛読書ではなく、「この業界や職種に関する情報はどのように収集されていますか。」「現職に関して、最近学んだことや知識を深めた内容について教えてください。」など、業務に関する学びに範囲を絞って具体的に質問すると良いでしょう。支持政党に関する質問前回の選挙ではどの政党に投票しましたか。ご家族が応援している政党はどこですか。尊敬する政治家はいますか。候補者がどんな政党を支持していても、業務には関係がありません。政治的思想も本来自由であるべき項目です。支持政党を聞き合否に影響があれば思想良心の自由の侵害です。また、選考の結果が採用なら良いという問題でもありません。特定の政党を聞いた上で合格したならば、他の候補者や第三者からは「特定の政党の支持者だから贔屓したのだ、公正な選考ではない」と受け取られかねません。社会運動に関する質問デモに参加することはありますか。どんなデモですか。過去に学生運動に参加した経験はありますか。労働組合には加入していますか。いつからですか。社会運動への参加経験は、仕事に必要な能力や経験とは直接的な関係がない事項です。自由であるべき候補者の個人的な価値観や考え方とも深く結びつくため、プライバシーの侵害や、思想良心の自由の侵害となってしまいます。また、参加したかどうかではなく、特定の社会運動やデモについての考えを聞くことも、同様に不当な差別に繋がってしまうため避けましょう。ハラスメントが疑われる質問体力のない女性は苦労すると思いますが大丈夫ですか。男性ならしっかり残業もこなしてもらいますが問題ありませんか。40代半ばで結婚していないのはなぜですか。男女雇用機会均等法に抵触するようなハラスメントはもちろん、セクシャルハラスメントやパワーハラスメント、アルコールハラスメントを匂わせるような質問も不適切な質問です。面接官は配慮のつもりで質問していても、受け取り手によっては「プライベートを深掘りされて不快だ」と感じることがあるので要注意。特定の性別・年齢・属性に限定した質問をするのは避けましょう。業務に関係のない範囲の犯罪歴に関する質問前職を退職した理由に何か犯罪が絡んでいるわけではないですよね。履歴書に書かれていない犯罪歴があったら教えてください。以前の生活でトラブルを起こした経験はありますか。個人情報保護法では、犯罪歴は要配慮個人情報としており、明確に本人の同意を得ない限り取得することはできません。また、犯罪歴があったとしても、その事実が応募者の業務遂行能力に直接関係しない場合、それを理由に採用可否を判断することは差別に該当する可能性があります。そのため、プライバシーと就職差別の観点から、前科に関する質問を無闇にしてはいけません。ただし、例えば、金融業・保険業であれば詐欺や横領の過去がないか、運輸業であれば重大な交通法規違反をしていないかなど、業務の遂行に関係のある質問は可能です。業務に関係のない範囲の病歴(既往歴)に関する質問過去に長期間仕事を休んだことがありますか。その理由は病気ですか。過去に精神科や心療内科に通ったことがありますか。健康診断で異常が出たことはありますか。健康状態や病歴は非常にセンシティブな内容です。業務を円滑に進めることに何も支障がないのに、既に完治した病気やHIVなど通常の業務で他の従業員に感染することがない感染症を理由に採用可否を判断することは就職差別に当たります。また、要配慮個人情報の1つであるため、明確に本人の同意を得る必要があり、プライバシーの観点でも無闇に質問することは避けましょう。ただし、特定の持病があることで、業務中に本人や周囲の従業員を危険に晒してしまう可能性がある場合は、その候補者に職業適性があるとは言えません。第三者から見て、確認することが合理的な範囲であれば特定の既往歴の質問が可能です。不適切質問か迷ったときにチェックしたい項目ここでは、候補者に質問しようと考えている内容が、不適切な質問か迷ったときにチェックしたい項目を解説します。「この質問をしていいものか」と迷ったときは、以下を参考にしてみましょう。本人の意思だけではどうにもならない項目か本人の意思だけではどうにもならない項目であれば、質問しないのが前提です。例えば出生地・本籍地・家族の職業・家族構成(兄弟姉妹の有無)・両親の離婚歴などは、本人の意思だけではどうにもなりません。実家の資産状況なども同様であり、それらを元に選考の合否を決めることはできません。ただし、本人の健康状態や障害の有無に合わせて職場における合理的な配慮が必要など、理由がある場合は質問してよいでしょう。仕事・業務に直接関係があるか入社面接は本人のスキル・経験や就労意欲を問う場です。仕事・業務に直接関係がある質問のみに留めておきましょう。貯蓄額や支援する政党の有無などは仕事や業務に関係がないため、入社面接の場で問いかける必要がありません。反対に、仕事や業務に関係する前職での経験や担当領域に関する質問は、しっかり掘り下げて質問しておくのがおすすめです。採用可否を判断する材料となり得るか質問してよいか迷ったときは、採用可否を判断する材料となり得るかを考えるとわかりやすくなります。個人的な興味で質問したいことや、プライバシーの侵害になり得る質問をするのは避けましょう。仮に採用企業側が選考とは関係なく軽い気持ちで質問したとしても、候補者からすると、全ての質問は採用選考の基準にされていると解釈してしまいます。その質問事項を聞かれたくなかった候補者は、精神的な苦痛を受けその後の面接で実力を十分に発揮できない可能性があります。答え方次第では合否に影響する質問のみを厳選しておけば、大きなトラブルになることはありません。あらかじめ明確に採用基準を設け、採用担当者間で質問内容を共有しておきましょう。関連記事:採用基準の例とは?新卒・中途採用における採用基準の例や重要性を解説面接の場で不適切な質問をするリスクここまで不適切な質問の例を確認してきましたが、もし質問してはいけないことを聞いてしまった時、企業にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。面接の場で不適切な質問をするリスクについて解説していきます。例え不合格にすることがほぼ確定している候補者であっても、徹底した配慮が必要な理由を探っていきましょう。途中辞退・内定辞退につながる不適切な質問をしたことにより企業イメージが下がり、選考の途中辞退や内定辞退につながる恐れがあります。優秀な人材を逃してしまうだけでなく、選考に割いてきた内部コストや求人コストも失ってしまうためメリットがありません。欲しいタイミングで理想的な人材が入社しなくなるなど、人事面に与える影響も多大です。ハラスメントで訴えられる明らかなハラスメントやプライバシーの侵害に該当する質問があった場合、会社や面接官が訴えられる可能性があります。既存の内定者に知られて内定辞退が相次ぐことも多く、会社とその候補者だけに収まらないトラブルに発展することも。場合によっては社会保険労務士や弁護士などプロの力を借りることになり、コストも時間もかかります。【お役立ち資料】知らないと危険!身近にあふれる「コンプライアンスリスク」企業イメージが著しく下がる「不適切な質問をされた」という事実が周囲に広がり、候補者以外が持つ企業イメージが下がることも多いです。候補者の家族・友人・学校の後輩、取引先・株主などのステークホルダーにまで話が回ってしまうと、目に見えないダメージとしてのしかかることも。近年はSNSであっという間に情報が拡散されてしまうこともあるので、炎上を招くこともあります。人材紹介の可否に影響する「不適切な質問ばかりしてくる会社」というイメージが根付いてしまうと、転職エージェントなどの人材紹介や、求人情報誌・転職サイトなどの利用がしづらくなります。利用について問い合わせても穏やかに断られてしまったり、優秀な人材を紹介してもらえなくなったりすることもあるので要注意。こうした問題は表面化しづらく、原因が不適切な質問にあると気づきにくいからこそ、普段から厳重に意識しておくことが大切です。コンプライアンスリスクを確認するならback check面接には「不適切な質問」があり、質問することによって候補者の気分を害したりハラスメントやプライバシー侵害が疑われたりすることもあるので注意しましょう。一方で、プライバシーの侵害になってしまう可能性があるからといって、経歴詐称やSNS上の不適切投稿、犯罪歴などがある候補者を全く確認せずに採用することは企業にとってコンプライアンスリスクを抱えることとなります。職業安定法上、候補者の個人情報について業務の目的達成に必要な範囲内であれば本人の同意を得て収集が可能です。機密情報の管理が必要な業務の人員募集であれば、不適切な投稿をしてしまう候補者は業務に適性があるとは言えません。また、業務に関係のある過去の犯罪歴があれば、業務の遂行に適切な人員とは言えないでしょう。しかし、履歴書や面接で得た情報から勝手に身元の調査を行ってはいけません。勝手に調査されたことが発覚し、候補者がハローワークに報告した場合、行政指導や改善命令の対象にもなり得ます。万が一発覚しなかったとしても、専門誌や新聞、インターネットなど、膨大な情報を採用担当者が調査しきるのは時間とコストがかかるでしょう。専門的なサービスやツールであれば、本人の同意を得た上で、法的にも問題なく、手間をかけずにコンプライアンスリスクがないかなどを確認するコンプライアンスチェックを実施することが可能です。株式会社ROXXの提供するオンライン完結型コンプライアンスチェックサービス「back check(バックチェック)」では、候補者の同意を得た上で候補者情報を登録するだけで、おおよそ3〜5営業日でコンプライアンスチェックが完了します。コンプライアンスリスクのない候補者を採用したいとお考えの方はぜひご検討ください。参考:厚生労働省「求職者等の個人情報の取扱いについて」