目次競争倍率の高いエンジニアが、企業選びで重要視する3つのポイントこれまでの、採用活動との関わりについて教えてください。自分で起業する前にいた会社では、エンジニア採用において、採用プロセスの立案や面接官、最終の意思決定などを担当しておりました。現在の会社、株式会社レクターでは、お手伝いをしている会社の採用プロセスを作ることもありますし、面接の代行、面接官のトレーニングを担当することもあります。エンジニアの採用計画・戦略の立案なども手伝っていますので、採用に関わる全ての工程に関わってきました。エンジニアだけでなく、プロダクトマネージャーやデザイナーなど、ソフトウェアを作る上で直接関わる人の採用にも携わってきました。エンジニア採用において、他の職種とは異なる部分だと感じることは、どのようなところでしょうか。ビジネス職の採用に直接携わったことはありませんが、それでもビジネス職の採用とは、ずいぶん違いがあると思います。というのも、エンジニア以外の職種の採用がうまくいっている会社でも、エンジニアの採用は上手くいっていない状況や、上手くいくためのアプローチが機能していない状況を多々見てきました。まず、特殊さの前提として存在しているのが、競争倍率の高さです。エンジニアの有効求人倍率は平均で7-8倍であり、他の職種に比べると異様に高くなっています。さらに、人材の流動性が高いwebベンチャーなどで採用されるエンジニアには、1人が10-20程度の求人を受け取ります。20社の中から選んでもらえるかという部分が、採用する側としては重要なポイントになります。もちろん他の職種でも倍率が高い職種はあると思うのですが、エンジニア程高い職種はないのではないでしょうか。どちらかというと、採用する側の努力の方向は、見極めようという努力ではなく、選んでもらおうという努力の方向にベクトルが強く向いています。では、エンジニアの方が企業選びで大事にしているポイントは、どのような部分でしょうか?まず、エンジニアは自分達への理解度を求めます。エンジニアが生産的に働けるためのカルチャーや仕組み、仕掛けづくりといった部分に、投資をしていく組織風土があるかどうか。また、キャリア形成につながる面白いプロジェクトや新しい技術に触れられるかどうか。そして、会社としての透明性です。会社で取り組んでいることをオープンにし、外からでも実態に近い状況を理解できるかどうか。以上3点が、主にエンジニアが会社を決める上で気にするポイントです。1つずつお伺いできればと思います。「理解度を求める」というのは、具体的にどのようなことでしょうか?誰しもが正確に評価してもらいたいと思うものですが、特に自分のスキルをきちんと理解してもらいたいという傾向が強いと感じています。というのも、自らかっこよく、ストーリー立てて話すことが得意かというと、そうでもない方が多く、過小評価されるのではないかという不安があるのだと思います。最近だと、Githubアカウントでオープンな活動を分析し、スキルを診断してもらいたい、や年収を上げる交渉が苦手だから、ドラフト形式で提示してもらったほうが嬉しい、など、スキルをきちんと評価してもらった上で自分で決めたいと考える方が多くいらっしゃいます。このような温度感の違いというのも、エンジニア採用の特殊さかなと思います。次に「キャリア形成につながるかどうか」という部分を大事にされているということでした。スキルの向上に意欲的な人が多いのも、エンジニアの特徴なのでしょうか?全てのエンジニアが、スキルやキャリアをクリエイトすることに熱心かというと、そのようなこともないと思いますし、ガツガツしている雰囲気もあまりありません。ただ、エンジニア業界は目まぐるしく技術が移っていくので、スキルの陳腐化が激しいように見えます。今のスキルや経験が5年後にも役に立つのだろうか、同じことばかりしていたら使えない人材にならないだろうか、という不安と隣り合わせなため、キャリアを考えている人は、今自分が触れているものに対しての恐怖感を抱くのだと思います。また、エンジニアのキャリア形成は、マネージャーやCTOなど、組織の上長になって影響力を増やしていくことに対する関心は、相対的に高くありません。技術力と呼ばれるような、直接的な問題解決能力に当たるポータブルスキルに対しての関心が高いと思います。スペシャリストとしてのキャリアを描いていきたいと考えて仕事をされる方が、相対的に多いと感じますね。「会社としての透明性」について、候補者に透明性がある会社だと感じてもらうためには、どのような発信をするのが良いのでしょうか?エンジニアは、コミュニティ経由の情報、コミュニティ全体を通じた温度感を大事にしています。例えば、エンジニアのブログやツイッター、様々なメディアで発信されている情報、イベントでの交流から、「この会社に行ったら自分が力になれるかも」「こういう取り組みをしているんだ。面白い会社だな」ということを、なんとなくキャッチしています。そして、コミュニティ経由の情報が記憶に残っていて、いざ転職を考えた時に思い出して働きたいと思う、というような流れが生まれます。内部から発信される情報って、嘘がつきづらいじゃないですか。経営者の方が「自分たちの事業はとても素晴らしいです」とかっこいいところばかりを見せている場合、憧れることもなきにしもあらずですが、「この会社には課題がないのではないか」「良いことばかり言っているのではないか」と感じてしまうことも少なくありません。実地に基づいて自分が活躍するイメージが持てず、応募や選考に残る意欲がなくなってしまうのです。なので、コミュニティを通じた透明性の高い活動から、真偽を判断することが多いです。広報や人事の方から、「今エンジニアさんが見ているメディアは何ですか?」や「どこに出したら候補者の心に刺さりますか?」ということをよく聞かれますが、特にこのメディアを見ている、というものはほとんどありません。むしろ、ソーシャル経由で目に留まる事の方が大事です。特定のメディアに掲載されたらすごい、という構造ではなく、自分の目にするところにテックブログが頻繁に現れたり、社内のSlackで「この記事面白いよ」と共有されていたり、コミュニティ経由で知る情報が、とても重要になってきています。売り手市場で重要な、候補者との1to1コミュニケーション外から見えるイメージより、実態を重視する傾向が強いのですね。採用においてよく気にされる”ネームバリュー”のようなものは、あまり意味を持たないのでしょうか?世間一般のネームバリューに関しては、就職人気ランキングで出てくるようなもので、気にする方ももちろんいらっしゃいます。転職する際に家族に説明しやすいなどは、ネームバリューがあることでのメリットとして存在していると思います。一方、エンジニアコミュニティの中でのネームバリューは、一般に出されている人気企業ランキングとは少し異なります。エンジニアコミュニティの中で噂になったり、シェアをされたり、何か参考にされることが多い会社になっていくと、「この会社にいくことはバリューになるな」「キャリアが作れそうだな」と思う方が増えていきます。どこにバリューを感じるかは人それぞれですが、いくつかの観点でネームバリューを気にされる方は一定いらっしゃると思います。実はこのネームバリューは、雪だるま式に増えていくものになります。最初にコツコツと発信を続けていくと、「イケてる会社」と思われて、イケてる人が集まります。イケてる人が集まると、その人たちもまた発信をして、さらに多くのイケてる人が集まります。どんどんと連鎖が発生して、様々なジャンルに魅力的な人たちが集まり、会社が成長し、入ったら離れない、というような人材のブラックホールが出来上がります。エンジニアの方が評価する部分で、認知をあげていくことが重要なのですね。逆に、特に大きい会社に多く見られますが、新卒採用や他の職種の採用がうまく行っている場合だと、自分たちのネームバリューがそのままエンジニア採用でも通用すると思い込み、「すごい人を選んで見極めてやろう」と考えてしまう企業も多く存在します。見極めてやろうという気持ちで、「役に立つのかな」とジロジロ見られて、自慢話ばかりされたら嫌じゃないですか。でも、採用をする側がその状況を作ってしまうことが結構あります。決まりきった一方的なメッセージだけではなく、「〇〇で発表されたり、▲▲のような活動をしていたんですね、自分たちは××で困っていて、××の解決にもしかしたらパワーを発揮していただけるのではと思いました、興味ありますか?」といったような、1to1の話をすることが大事だと思っています。one of themとして接してしまうとお互いにとって苦しい時間になります。このような期待値調整の部分だと、カジュアル面談が良い例です。カジュアルに面談するだけなんですよ、本当は。お互いに知り合うというフェーズで、フィーリングが合うか、興味があることは何か、どのようなことをしてきたのかを話した上で、選考に進むかどうかを聞くだけです。お互いにコミュニケーションをとった上で、どうですかと聞くはずなのに、全てを端折っていきなり口説いてきたり、見極めるような質問をされると、受け手側は不愉快ですよね。買い手市場の時にはそれでも上手くいっていたので、この不快感って見過ごされていたと思います。一方、今のエンジニア市場は完全に売り手市場になっているので、相手の理解と、文化を作る試みと、何故あなたが必要かという1to1のメッセージを組み込むことが、非常に重要になります。どうして、上記のような不愉快なコミュニケーションが発生してしまうのだと考えますか?面接を通じて候補者を確認しなければいけないと、強く思っているからだと思います。当然、採用をするとなったらミスマッチがないか、最低限の確認をしなければいけないと思うのですが、表向きに相手に伝えるかどうかは別の話です。思いと行動のバランスをとるトレーニングをあまりしていないのではないでしょうか。エンジニア採用で面接を行う人は、現場、マネージャー、CTOなどであり、採用のプロとして面接のトレーニングを受けたことのある人はほとんどいないと思います。エンジニアマーケットの話を理解していないまま、最低限聞いてはいけないことだけ教えてもらい、面接に挑むことも多いのではないでしょうか。採用活動に取り組むスタンス、何を得たくてこのような会話や質問をするのかといった、そもそもの立て付けを知らない状態で臨む人も多いのだろうと思います。そうなると、カジュアル面談で話をしているのに、「何故弊社に入社したいのですか?」と聞いてしまう。プロセスのインストールがモヤっとしている状態で始めてしまうことで、このような不幸が生まれてしまうのだと思います。即戦力じゃないとか、今は自社にマッチしないとか、様々な理由でお見送りにすることはあると思います。ですが、採用される側しか経験をしていない人は、「採用は落とす人を決めるプロセス」というマインドになってしまうんですよね。採用活動では、「認知を広げること」「興味や関心を持ってもらうこと」「ファンになってもらうこと」が大事です。今はスキルセット的に採用したい人ではない場合でも、社内でトレーニングができるフェーズになったらもう一度興味を持ってもらえたり、数年経過したら候補者のスキルも上がっていたり、結果的に入社してもらえる可能性も十分にあります。採用は仲間作りであると捉え、外に広げていくことが採用活動においてはとても重要です。ネットワークを広げていく、新しい採用の形逆に、エンジニア候補者の方が、転職活動を成功させる上でポイントになる部分はありますか?自分のツテを辿り、知り合いに辿り着くことではないでしょうか。企業の表玄関から入っていくのではなく、知り合いとして遊びに行き仲良くなり、現状を共有しつつ距離を縮めるのが良いと思います。その中で、「この人すごい人かも知れない」と興味を持ってもらえるようにしていけば良いのではないでしょうか。採用する側も選考の段階ではすでに候補者のことを知っているので、「まだ分からない知らない人」にはならないんですよね。そうなると、透明性のある情報も得やすいです。転職活動における一番のギャップは、情報の非対称性だと思っています。候補者は候補者で隠せることもありますし、企業は企業で、働き方や中身の実態は隠そうと思えば隠すこともできるじゃないですか。それに対し、オープンな情報が多ければ多いほど、安心感につながります。また、偉い人の情報より、実際に働いている人の情報が重要だと思っているので、そのような観点でもリファラルでの交流は重要だと感じています。オープンな情報発信をすることで、採用において様々な好循環が生まれますね。今は働き方が多様ですよね。副業や業務委託などで一部手伝ってくれている人、イベントに参加してくれる人、自分たちの活動に興味を持ってくれる人など、自分たちの活動に何らかの形で貢献や共感をしてくれる人は沢山います。例えば、プロダクトを使って下さっているお客さんの中に、すごく熱心にプロダクトのフィードバックをくれる方がいらっしゃいますよね。このような人は自社のプロダクトを愛してくれるカスタマーであり、すでに何か仕事をしてもらっているようなものです。社員か社員じゃないか、二極の世界で採用活動を捉えるのではなく、コミュニティやネットワークを作っていく活動というのが、とても大事になります。ー人との繋がりをこれまで以上に大事にしなくてはいけませんね。弊社サービスのback checkも、信頼を軸に展開しています。リファレンスも、過去の繋がりの中での評価であり、繋がりの中で仕事をしてきたということの証明になります。誰かに何かコメントを書いてもらえるくらいに信頼を積みながら仕事をしてきたという点で、リファレンスが取れること自体がとてつもない価値になります。企業側も候補者のより詳細な情報を知れるので、情報に対称性が生まれます。このような動きは、今後転職市場でも増えていくと思っています。【お役立ち資料】「リファレンスチェック入門」を今すぐダウンロード最後に、エンジニア採用に関わる読者の皆さんにメッセージをお願いします。採用活動において、従来は企業という線引きが大事だったのですが、少なくともエンジニア採用に関しては、どんどん人的なネットワークの中での繋がりが重要になってきていると思っていて、そのネットワークを育てることが企業も個人も大事になります。ビジョンや価値に対する繋がりの形態が多様な中で、正社員は共感者の中核でしかありません。まずは周辺にいる多くの共感者を上手く巻き込み、その中で、正社員になることを選んでいただくくらい好きになってもらうにはどうしたら良いか、時間を投資する判断をしてもらうにはどうしたら良いかという思考で、採用活動を行っていくと上手くいくと思います。新しい採用の形が生まれつつあるのだなと、ひしひしと感じました。エンジニア採用において企業視点、候補者視点でのお話を詳しくお伝えいただき、ありがとうございました。