目次人的資本経営とはそもそもどういう意味?従来の経営に対する考え方は、従業員は「ヒト・モノ・カネ」という、会社経営に必要な「資源」の一つとして捉えられてきました。モノやカネと同じように、ヒトもできるだけ削減し、効率的に回転することが理想とされてきました。一方「人的資本経営」の考え方においては、人は投資すべき「資本」だと捉えられます。従業員を「人的資源」としてではなく、付加価値を生み出す「人材」「人的資本」として扱い、教育や成長機会を提供し「投資」することで、従業員の価値を引き出すことに重点を置きます。組織を構成する「ヒト」の本当の価値が発揮されることで、企業に新たな付加価値や利益として還元され、結果として企業価値が向上するというのが、人的資本経営の基本的な考え方です。【お役立ち資料】じっくり解説:人的資本経営とは人的資本経営が注目されている3つの背景時代の変化とともに注目されるようになった人的資本経営の考え方ですが、その背景を具体的に探ってみましょう。無形商材やサービスを取り扱う「第三次産業」の割合増加まず挙げられるのが、「第三次産業の割合の増加」です。農業、漁業などの第一次産業、建設業、製造業などの第二次産業の割合が年々減少していることは、データでも明らかになっています(※1)。代わってサービス業や無形の商材を扱う第三次産業の割合が年々増加し人材の重要性が高まってきたことが、ヒトを資源ではなく資本として捉えるようになった大きな要因だと言えるでしょう。第一次産業、第二次産業と異なり、IT・コンサルティング・医療・教育・小売などの第三次産業は、従業員の知識・スキル・ホスピタリティがサービスの品質や競争力を決定づけるためです。※1 参考:産業別就業者数(第一次~第三次産業、主要産業大分類)|独立行政法人労働政策研究・研修機構(取得日:2025年2月6日)働き方が多様化していること社会の変化に伴って、働くことへの価値観も大きく変わりました。ワークライフバランスの重要性が叫ばれるようになり、男女の雇用機会の均等性が求められ、時短勤務、フレックス、リモートワーク、働き方改革、転職の一般化、副業・兼業の増加、フリーランス、外国人労働者の増加など、働くことを取り巻く環境自体がここ数年で大きな変化を遂げています。こうした変化の中で、企業は単に労働力を確保するだけでなく、多様な人材が最大限に能力を発揮できる環境を整えることが求められています。特に、個々のキャリア形成の支援や、柔軟な働き方を実現する制度の整備が、企業の競争力向上や優秀な人材の確保に直結するようになっています。このような背景から企業は従業員を単なる労働力ではなく「価値を創造する資本」として捉える必要が生じ、人的資本経営が注目されるようになりました。情報開示の義務化近年、投資家は企業の従業員に関する資源や取り組みが企業価値を形成する重要な要素であると認識するようになりました。この考え方の進展に伴い、ISO 30414(2018年に策定された国際規格)に基づいて、人的資本の情報開示が企業に求められるようになりました。この規格は、企業がどのように人材を管理し、投資しているかを透明にすることを目的としています。さらに、2023年3月31日以降に終了する事業年度にかかる有価証券報告書からは、日本の上場企業に対して「人的資本の情報開示」が義務化されました。この義務化により、企業の経営層は人的資本の管理や開示に対する関心を急速に高め、人的資本経営の注目度がさらに高まりました。株式会社において投資家は無視できない存在です。投資家の関心を引き、企業価値を向上させるためには、人的資本経営を積極的に推進することが重要です。企業が人的資本をどのように活用しているか、従業員の満足度や成長の支援、労働環境の改善などの取り組みを透明に示すことが、投資家にとって「魅力的な企業」として評価される要素となります。人的資本経営が注目されるようになったきっかけここで、人的資本経営への注目が高まる大きなきっかけとなった出来事を紹介します。2018年:ISO30414の発表人的資本経営が注目されるようになったのは、前述したISO 30414が大きなきっかけの1つと言えます。ISO30414とは、2018年にISO(国際標準化機構)が発表した、人的資本情報開示のためのガイドラインのことです。会社経営を構成する上で重要な人材マネジメントにおける11の領域について、合計58のレポートすべき項目が定められています。企業の成長性を判断する上でも「各企業が人材マネジメントにどのように力を注いでいるか」が世界的にも大きな基準とされるようになりました。2020年:人材版伊藤レポート発表2020年に発表された「人材版伊藤レポート」(※2)は、人的資本経営による人材の価値の最大化の重要性を示し、人材戦略に関する提言をまとめています。持続的な企業価値の向上や経済成長を支える原動力は「人」であり、社会全体で人的資本の向上を実現することが重要であると説いたことで、日本企業において「人的資源」から「人的資本」の考えにシフトする一因となりました。※2 参考:経済産業省.(2020)持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~ (2025年2月23日参照)人的資本経営における人材戦略の3つの視点人材版伊藤レポートの中には、人的資本経営を実現するための人材戦略について、重要な3つの観点について触れています。経営戦略と人材戦略が連動しているか人的資本経営において、経営戦略と人材戦略の連動性は非常に重要です。人的資本経営を実施しようと、安易に多額の人材投資や先進的な人事制度の導入などの小手先の取り組みを行っても企業の成長には繋がりにくいのです。企業経営にとって社会に価値を生み出し、それによって利益を生み出し会社が存続していくことが大きな目的です。最終的な企業の目的から逆算して戦略を策定する必要があります。経営戦略と連動した人材戦略を組み立てるには、経営陣主導としつつ、現場の視点とも照らし合わせながら進めていくことが求められるでしょう。As is-To beのギャップを客観的に分析しているかAs isは現状、To beはなりたい姿を表します。その間を隔てる要素が何なのか、課題として抽出するために客観的な視点で分析します。As isと、To beの差分をできるだけ定量化し、ギャップを埋めるための教育、人材配置などの人材戦略や施策の策定を行うことが求められるでしょう。例えば、「自社の経営戦略上、○年後にデジタル人材を●●人確保する必要がある。(To be)」といった、時間軸も含めた具体的なKPI指標を設けることで、その後の施策も適切に選定しやすくなります。企業文化として定着させるべきものかどうか企業文化は、組織や個人の行動に影響を及ぼすものです。そして、日々の活動や人材戦略の実行プロセスを通じて浸透、定着していきます。そのため、人材戦略の策定段階で自社の成功につながる企業文化を定義し、人材戦略の実行プロセスを通じて意図的に理想の文化を醸成していきましょう。企業文化として定着させるべき行動や思考なのかは、「企業理念に沿っているか、企業のビジョンを達成するための方法として適切かどうか」に注目して判断しましょう。企業文化の定着化に向けて、各種施策の実行と共に、経営トップ自らが粘り強く発信していくことも重要です。以上の3つの観点を持ちながら、計画策定・実行・分析・改善のサイクルを繰り返すことで、自社の目標を達成できる人材戦略となるでしょう。人的資本経営における人材戦略の5つの具体的な施策前章で、人的資本経営を実現する人材戦略の基本的な考え方がお分かりいただけたと思います。それでは具体的な人事施策に落とし込んでいきましょう。各社の状況によって様々な施策が考えられますが、戦略・施策の策定時に押さえておくべき要素があるのです。ここでは人材版伊藤レポートを参考に、どの企業も共通して持つべき人材戦略の5つの特徴をご紹介します。動的な人材ポートフォリオ「動的な人材ポートフォリオ」とは、経営戦略に基づいて必要な人材を確保し、適材適所で配置することを指します。つい、現在在籍している従業員の人数やスキルを起点として戦略を練りたくなりますが、それでは経営戦略上の最善手を選べない場合があるでしょう。将来の経営戦略を見据えて逆算する形で必要な人材像を定義し、それに合った人材を獲得・育成することが求められます。変化の速い現代においては、いかに早く不足している人材・スキルを補完できたかが競争力に直結します。日頃から通年採用や既存従業員へのリスキルなどの施策に取り組むと良いでしょう。また、過不足のない人材ポートフォリオを組むには、採用候補者が本当に自社に必要な人材であるかを見極めることも必要です。そのため、リファレンスチェックを選考過程に組み込むと良いでしょう。リファレンスチェックとは、候補者の元上司や同僚など、過去に一緒に働いた人から働きぶりや価値観についてヒアリングする選考手法です。事前に定義した「必要な人物像」に該当するかを多くの視点から確認することができるでしょう。関連記事:リファレンスチェックとは?基本的な流れや質問内容について解説知・経験のダイバーシティ&インクルージョン人材の多様性は企業の成長の原動力です。しかし人材獲得に成功し、十分に人材ポートフォリオが構築できても、多様な個人ひとりひとりや、チーム・組織が活躍できていなければ、生産性の向上やイノベーションの創出にはつながりません。個々人の多様性が、それぞれの知見や経験を組織内で有効に活用し、企業価値の向上につなげる仕組みを整えることが求められます。また、ダイバーシティとは性別や国籍といった属性の話に限りません。他業界での経験やスキル、様々なキャリアパスや専門分野といった要素も多様性の1つです。将来の経営戦略から逆算した上で、多様な人材を取り込むことが重要となります。リスキル・学び直し目指すべき自社の姿と現在の従業員とでスキルギャップがあるならば、その差を埋めていく必要があります。事業環境の急速な変化についていくためにも、専門性の向上が必要となるでしょう。従業員の自主性のみに任せず、施策として自律的にキャリアを形成できるよう支援し、新たなスキルの習得を促進することが重要です。特に生産性の向上にITリテラシーは必須ですし、AIに代替されないような創造的思考の強化も今後の労働市場で求められるスキルとして欠かせません。さらに、企業の変革を推進するためには、経営陣自身も率先してリスキルに取り組み、学び続ける文化を組織に浸透させる必要があります。従業員エンゲージメント従業員エンゲージメントは人的資本経営の中心的な要素の一つです。企業が持続的に成長するためには、従業員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組める環境を整えることが不可欠です。そのためには、企業と従業員が対等な関係を築き、成長の方向性を一致させることが重要となります。企業理念や経営戦略を積極的に発信し、従業員との対話を深めることで、共感や納得感を高めることが求められます。また、柔軟な働き方の導入や、多様なキャリアパスの提供を通じて、従業員エンゲージメントを高めることも重要な取り組みです。まずはエンゲージメントサーベイなどを実施し、現状の従業員エンゲージメントの把握から始めると良いでしょう。関連記事:エンゲージメントを向上させるには?6つの施策と実践プロセスを解説【お役立ち資料】社員が辞めない職場はどう作る?エンゲージメント向上の実践ガイド時間や場所にとらわれない働き方災害や感染症の流行といった非常時でも事業を安定して継続するために、いつでもどこでも安心して働ける環境を整備することは不可欠な要素となっています。ただし、物理的な距離が広がることで、より高いマネジメントスキルが必要とされています。リーダーシップの強化や適切な業務プロセスの設計、コミュニケーション方法の支援など、遠隔環境でも円滑に業務が進められるよう対応していきましょう。人的資本経営がもたらす3つのメリット人的資本経営がもたらす3つのメリットを解説します。社会的信頼を獲得し、企業ブランディングの向上に繋がる人材への投資こそが企業価値の向上に繋がるというのが、人的資本経営の軸となる考え方です。社会的な価値も上がり、求職者からのイメージアップにも繋がるでしょう。先に述べたように、人材戦略が企業文化として醸成されていけば、それが企業のブランディング向上に直結します。投資家に注目され易くなる人材戦略にどのように取り組んでいるかが会社の成長性を測る基準となると述べましたが、人的資本経営への取り組み度合いが強ければ投資家からの注目も集めやすくなります。投資家にとってもまた、社会的な価値が高い企業へ投資をしているというイメージアップが見込めると言う側面もあります。投資額が増えれば当然、会社としてできることの可能性も膨らむでしょう。従業員エンゲージメントが向上し、生産性の向上に繋がる外側からどう見えるか、という観点でメリットを2つ述べましたが、当然重要なのは実際に働く従業員にとってのメリットです。組織を動かす駒ではなく、大切な「人的資本」として人事施策が実行されることで、従業員は教育や研修による自身のスキルアップ、福利厚生の充実など働く環境の整備といった恩恵を受けることとなります。それによってモチベーションが向上し、会社としては生産性、業務のパフォーマンスの向上が見込めます。このように、相互にポジティブに作用し合いながら企業が成長していくことが、人的資本経営の最大のメリットです。人的資本経営と「人にやさしい経営」は違う最後に、人的資本経営を実現するために忘れてはいけないことがあります。それは人的資本経営とは「人にやさしい経営」とは違うと言うことです。自社の従業員の働く環境や待遇を改善すること自体は目的ではありません。人的資本経営に取り組む目的をまずは明確にすることです。その目的が企業の理念や目指すべきビジョンと連動していなければならないことは既に述べました。あくまで、企業が目指すべきゴールを達成するための手法の一つに過ぎません。人材に投資し管理することは、農業に似ています。雨の日も風の日も惜しみなく愛情を注ぐ、即ち管理する目的は、収穫にあります。人材への投資においても、時には非常な決断を迫られることがあるかもしれません。主導権はあくまで経営陣が握らなければならないのです。全てを与え、用意し、芽が出るのを待つ責任は経営者が果たさなければなりませんが、それでも芽がでないこともあるのです。どのようなタイミングで水をあげ、どのような肥料を使い、どのような方法で管理するのかを深く検討し、改善し続けなければなりません。投資をしても見込みのない人材を採用してしまったり、従業員にしかメリットのない施策導入にコストを使ってしまったりしないためには、企業として目指すゴールを明確に設定することです。その上で現状とのギャップを分析し、必要な戦略を「経営目的に沿って」作っていくのです。実行と改善を繰り返した先に、あなたの会社が真の意味で「人材にやさしい」企業となることを心から願っています。人的資本経営実現を目指すならback check人的資本経営を実現することで得られるメリットと、実現を目指すためのプロセスや重要なことについて解説してきました。特に人的資本経営の中心となる人材戦略はエンゲージメント向上施策です。従業員エンゲージメントを高め、従業員が主体的に働くようになることで、自社の目指すべき姿に近づきます。目指す将来像に正しく近づいていけるようになった時、人的資本経営が実現できていると言えるでしょう。動的な人材ポートフォリオの構築の上で、リファレンスチェックの導入をおすすめしました。人的資本経営の人材戦略の効果を出しやすくするためにも、リファレンスチェックなどにより採用に多くの視点を取り入れ、従業員エンゲージメントを高めやすい人材であるかを見極めておくのは効果的です。さらに、採用時のリファレンスチェックで、キャリアビジョンなども把握しておけば、入社後の1on1で適切なフィードバックがしやすくなったり、個別の研修提案などでキャリア形成を支援しやすくなったりと、従業員エンゲージメント施策に活用できるメリットもあります。株式会社ROXXが提供する「back check」なら、オンライン上でのデータ入力のみで短期間かつ安価に候補者に関する情報を収集することができます。人的資本経営実現のための組織作りに、ぜひ株式会社ROXXが提供する「back check」をお役立てください。