目次コンピテンシー評価とはまずはコンピテンシー評価の基礎的な概要をチェックしてみましょう。なぜ注目されているのか、評価項目はどのようにして作るのか、これまでの評価制度(能力評価)との違いなどを詳しくお伝えします。コンピテンシーとはコンピテンシーとは、企業内で高い成果を上げる人材の行動特性のことをいいます。既存社員の中で優れた成果を上げる人材をモデル化したり、企業の理念や事業戦略などから作り出したモデルを元に評価基準を細かく定めていくのが特徴です。個人のスキルや技能だけでなく「成果を上げる人がどのような行動をとっているか」に着目、分析することによって再現性の高い人材育成が可能になります。コンピテンシーは、企業ごとにオリジナルの評価項目を作成します。コンピテンシーディクショナリと呼ばれる6つのカテゴリーと20の項目を参考にしながら作成するのが一般的です。部署や業務ごとに目標や求められる行動特性が異なるため、企業内で複数のコンピテンシーを作成することもあります。関連記事:コンピテンシーとは?基礎知識から導入方法までわかりやすく解説職能資格制度(能力評価)との違いコンピテンシー評価と職能資格制度(能力評価)はしばしば混同されることがありますが、両者には明確な違いがあります。職能資格制度は、人材の能力・スキル・知識などを評価するものです。長期的な視点で社員をじっくり育てていくときに活用できる評価制度といえます。ただし能力評価は年功序列に陥りやすく、評価基準が抽象的で曖昧という点がデメリットです。協調性・積極性・責任感などの抽象的な観点で評価されるため、必ずしも公正な評価ができるとは言い切れない側面があります。コンピテンシー評価は、社員のスキルや知識ではなく「行動特性」を評価するものです。「どのような行動が成果に結びついているか」「なぜその行動をとったのか」などの行動や思考を評価するため、より具体的な評価項目を設定します。例えば「傾聴ができる」「効率的な業務構築ができる」などです。これにより評価のしやすさや評価への納得感も向上、効率的かつ戦略的な人材マネジメントができるようになります。事業の成果を短期間でアップさせる効果も期待できる手法です。【お役立ち資料】求職者の行動特性を第三者に確認できる「リファレンスチェック」とはコンピテンシー評価のメリットコンピテンシー評価のメリットをさらに深堀してみましょう。コンピテンシー評価の魅力やメリットは多岐にわたります。ここでは最も重要な4つの利点についてお伝えします。人材の育成が効率化するコンピテンシー評価を導入することで、人材の育成が効率化しスピーディーになります。コンピテンシー評価の基準は、ハイパフォーマーの行動特性を抽出しているため「どのような行動や対応が成果につながるか」「どの点で努力すれば高い評価を得られるか」がはっきり示されます。成果につながる具体的な行動が分かれば、従業員一人ひとりが今後の課題を見つけやすくなり、モチベーションも高まります。コンピテンシー評価を導入することで、結果的に即戦力人材が生まれやすくなります。従業員への評価がしやすくなるこれまでの評価制度では、評価する人事担当者や上司の主観や、対象者との関係性によって評価が左右されてしまうことがありました。しかし、コンピテンシー評価は具体性の高い評価項目なため、より客観的な評価がしやすくなります。評価をする側が評価の付け方に悩むことや、自身の保身や出世のために歪んだ判断をすることも少なくなります。評価がより簡単になるため、人事担当者の業務効率アップにもつながるでしょう。人事評価への納得感が高いコンピテンシーによる評価基準は、評価される側の納得感も高くなります。「どのような行動で評価されたのか」「どのような行動が足りていなかったのか」など具体的な評価内容を理解しやすくなるためです。このように評価内容が明確なことや、具体的行動に対する評価を得られることは従業員の成長を促す要素になります。今後どのような点を意識して業務に当たるべきか、自身の課題はどんな行動にあるのかといったアドバイスとしても活用できるでしょう。評価内容が公正かつ明確になれば、社員の評価に対する不満を減らすことができます。モチベーションやエンゲージメントを高められるなどの利点ももたらします。【お役立ち資料】社員が辞めない職場はどう作る?エンゲージメント向上の実践ガイド会社のビジョンと評価の方向性を合わせやすいコンピテンシー評価では、自社の経営ビジョンや戦略と人事評価の方向性を合わせやすくなります。これまでの職能資格制度のような能力評価は、経営戦略や自社のビジョンに相反する評価になってしまうことも少なくありませんでした。一方でコンピテンシー評価の場合、従業員一人ひとりの行動や思考が評価基準です。企業のビジョンやバリューといった価値観と人材の評価基準を合わせれば、社内全体に企業ビジョンが浸透しやすくなります。コンピテンシー評価のデメリットコンピテンシー評価は画期的な評価制度ですが、少なからずデメリットもあります。導入時や運用面のデメリットをまとめていますので、これらを念頭に置きながら検討してみてください。評価モデルの選定や分析が困難コンピテンシー評価の最大の難点は、導入までのハードルが高いことです。コンピテンシー評価に用いる項目は既定のテンプレートなどが用意されているわけではなく、自社独自の評価基準を作成する必要があります。さらに、評価のモデルとなるハイパフォーマーを選定することや、ヒアリング、分析など多くの工数が必要です。ハイパフォーマーのどんな行動が成果につながっているのかわからないことも多く、分析の時点でつまずいてしまうケースもあります。評価モデルの選定や分析においては、成果に結びつく要素を十分に理解し評価に落とし込むのが重要ですが、これが非常に難しい点なのです。自社オリジナルのコンピテンシー評価を完成させるまでには、かなりの時間と手間がかかる上、分析が難航することもあると覚えておいてください。業務や経営状況など環境の変化に適応しづらいコンピテンシー評価は、定期的に変更や修正を繰り返しながら運用するPDCAサイクルが必要な人事制度です。しかし、コンピテンシーの評価項目は具体的で細かいため変更が難しくなります。事業の成長フェーズや市場、社会情勢の変化などによって企業に求められる課題は常に変化します。企業の課題が変化すれば、その都度社員に求められる行動も変化するでしょう。コンピテンシーの細かく解像度の高い評価項目を、その都度修正するのは大変な作業です。導入後のメンテナンスコストは比較的高めであることを見越しておきましょう。コンピテンシー評価の導入手順ここからは、実際にコンピテンシー評価を導入する際の手順をチェックしていきます。全5つのステップで必要な作業と、重要なポイントをまとめました。STEP1.ハイパフォーマーやモデル対象の分析まず、既存社員の中から高い成果を上げている人材をモデルとして選出します。モデル対象となる人材へ、念入りなヒアリングと観察を行い、ハイパフォーマーの行動特性を分析していきます。業績の件数や金額といった定量的な事実も大切ではありますが、数値化できない定性的な分析も非常に重要です。「どんなことをしたか」という実際の行動と同時に「なぜそのような行動をとったか」という“思考の特徴”に気づくことも大切です。ハイパフォーマーやモデルの分析は、コンピテンシー評価制度の要となる部分です。ここで間違った仮説を作ってしまうと、この先作成する評価項目が見当違いなものになってしまうおそれがあるため、ある程度時間をかけて慎重に進めましょう。STEP2. コンピテンシー項目の洗い出しSTEP1の分析結果を元に、コンピテンシー項目の洗い出しを行います。ハイパフォーマーの特性をコンピテンシーディクショナリや他社の事例などと照らし合わせて候補を出していく工程です。評価項目の洗い出しをするときは、より具体的で、出来不出来が明確に分けられるような表現にするとよいです。候補段階なのでコンピテンシー候補はたくさん挙げておいて構いませんが、自社に最適なものであるかをしっかり検討するのが大切です。既成概念や固定観念に捉われることなく、オリジナリティのあるコンピテンシーを作成していきましょう。STEP3.コンピテンシーモデルの作成続いてコンピテンシーモデルを作成します。コンピテンシーモデルとは、コンピテンシーを実際の業務に落とし込むための行動モデルのことです。コンピテンシーモデルは「モデル型」「理想型」「ハイブリッド型」の3種類があります。モデル型はSTEP1のように、既存社員の中で好成績を出している従業員へのヒアリングや観察から導き出すモデル像です。理想型は、企業の理念やビジョン、経営戦略などを元に理想的な人材を描くモデル像。ハイブリッド型は、モデル型と理想型を融合させ、上手く組み合わせながら作るモデル像になります。社内でモデルにふさわしいハイパフォーマーがいない場合には、理想型をベースにコンピテンシーモデルを作成するのが一般的です。ハイパフォーマーからのヒアリングや行動観察が可能な場合は、モデル型やハイブリッド型で作成するのもよいでしょう。自社に適したコンピテンシーモデルを選出することがとても重要になります。STEP4.企業ミッション・ビジョン、経営戦略とのすり合わせ設定したコンピテンシーが、自社のビジョンや経営戦略に即しているかをチェックしていきます。STEP2で洗い出したコンピテンシー候補を精査していくようなイメージです。企業ビジョンに合致しないコンピテンシーは、実際の評価や育成に対して機能しない可能性が高くなります。マッチしないコンピテンシーがあれば除外し、評価項目を厳選していきましょう。丁寧に確認しながらブラッシュアップを行い、コンピテンシー項目設計を完成させていきます。STEP5.評価シートと行動の改善コンピテンシー評価項目が決まったら「評価シート」にまとめていきます。評価シートの大枠ができたら従業員に共有し「なぜこのような項目を設定したのか」という理由や背景などを担当者から説明できるのが理想的です。業務に直接携わる従業員の声も取り入れるように配慮しましょう。そして、行動の改善と売上動向の連動をチェックしていきます。売上や成果に変化がなかったり、逆に落ち込んだりする場合、コンピテンシー評価が適切でない可能性が考えられます。実際の売上や成果に直結しない評価項目を掲げてしまっているかもしれません。正しく機能する評価基準になっているか、ズレが生じていないかは、今後長期的に見直しを繰り返す必要があります。コンピテンシー評価導入時の注意点コンピテンシー評価を導入するときに注意しておくべきポイントを確認しましょう。新しい評価制度を軌道に乗せるための注意点は大きく3つです。成果の向上も確認するコンピテンシー評価では行動特性による評価基準を設けますが、成果を評価しないわけではありません。コンピテンシー評価を導入するそもそもの目的は売上や成果を上げ、企業の成長や発展を促すことにあります。公正な人事評価や効率的な人材育成は、企業の成長のためです。コンピテンシー評価の最終的な目的は「成果を上げること」にあることも忘れないでください。コンピテンシーモデルを意識しすぎないコンピテンシーモデルを意識しすぎないことも大切です。コンピテンシーモデルどおりの人間は存在しませんし、モデルどおりの行動取ることが目的ではありません。従業員に求めるものや課題は、理想と現実の間に位置するものであることを忘れず、大事な人材を理想化しすぎない心がけも重要です。コンピテンシーモデルを押し付けてしまうと、従業員のモチベーション低下につながります。定めた評価項目はあくまでも目安であり、ひとつの基準にすぎないということも念頭に置くようにしましょう。定期的に評価項目の見直しを行うコンピテンシー評価の内容は、定期的に振り返り、更新し続ける必要があります。企業の成長フェーズ、市場の動向や社会情勢などさまざまな要因によって、企業の目標も変化するでしょう。すると必然的に、従業員一人ひとりに必要な行動特性や思考性も変化するはずです。コンピテンシー評価の修正は手間や時間がかかりますが、必要に応じて更新やメンテナンスを怠らないよう管理し続けることも重要になります。関連記事:コンピテンシー面接とは?メリット・デメリットや質問例などを解説!まとめ:コンピテンシー評価は自社に合わせた項目設計が重要以上が、コンピテンシー評価の基本や特徴、導入手順など一連のまとめです。導入の難易度は高めですが、うまく機能させることができればさまざまなメリットをもたらし、企業全体の成長につながります。企業の発展に欠かせない「人材の定着化」や「業績の安定化」にも一役買うはずです。今回紹介した流れの中でも、コンピテンシーの評価項目を設計するステップが最も難易度の高い作業になります。決して導入を急がず、さまざまな事例を参考にしながらハイパフォーマーの選定、ヒアリングなどから始めてみてください。一歩ずつ着実に進めることが、コンピテンシー評価制度確立成功のカギと言えるでしょう。