目次コンピテンシー評価とは?コンピテンシー評価とは、従業員の職務遂行能力や行動特性を評価する手法です。コンピテンシーとは、高いパフォーマンスを発揮する人に共通する行動特性のことをいいます。単なる知識やスキルではなく、高い成果を生み出す行動特性に焦点を当てているのが大きな特徴です。ビジネスにおけるコンピテンシーという概念は、1973年にハーバード大学のデイビッド・マクレランド教授が提唱しました。従来の仕事の成果のみを評価する手法に対して、「実際の職務遂行能力」を評価する必要性を説いたのです。関連記事:コンピテンシーとは?用語解説から活用シーンまで詳しく紹介コンピテンシー評価を導入することで、学歴や在籍年数に関係なく、公平で効果的な人材評価や育成が可能になります。しかし、コンピテンシー評価の運用には評価対象の職種や役職ごとに適切な評価項目の設定が重要であり、それが本記事のテーマとなります。関連記事:コンピテンシー評価とは?メリット・デメリットや導入の流れを解説コンピテンシー評価の項目はどのように決める?コンピテンシーの評価項目を決定するプロセスは、通常以下の4つのステップで進められます。それぞれのステップについて詳しく見ていきましょう。①理想となるコンピテンシー項目の洗い出しまず、今回の評価対象となる部門・部署や役職に対し、組織で必要とされるコンピテンシーを幅広く洗い出します。コンピテンシーの洗い出しには以下のような方法を用いることができます。経営理念や企業文化に沿った価値観の明文化職種や部門、役職に求められる能力の分析業界標準や他社で活躍している人材の研究社内アンケートやインタビューの実施どんなコンピテンシーを持つ人物であれば自社で高いパフォーマンスを発揮することができるでしょうか。ここでは架空の人物を想像し、「このような価値観を持っていて、それゆえに〇〇な行動になる人」「このようなスキルを裏付けに、〇〇な行動ができる人」と、高い成果に繋がる行動特性をイメージしていきましょう。洗い出された項目は後のステップで絞り込んでいくため、この段階では要素を広く網羅的に集めることが重要です。行動の裏には、その背景となる思考・動機や性格、価値観があります。例えば、営業職で同程度の高いプレゼンスキルを持っていたとしても、「とにかくたくさん売る」という価値観の人材と、「顧客第一」という価値観を持っている人材では、最終的な成果が変わってくるでしょう。どちらかが正しいわけではなく、自社の商材においては、どちらの価値観の方が高い成果に繋がるのかを考える必要があります。資格やスキルだけにとどまらず、どんな考え方ができる人材であればその部門において成果を発揮できるか、要素を深掘りしていきましょう。②ハイパフォーマーの分析次に、今回の評価対象となる部門・部署や役職で好成績を挙げているハイパフォーマーの行動特性を分析します。ここでは以下のような手法が用いられます。STAR面接(行動面接)360度評価データの分析日常の業務観察直属の上司へのヒアリングSTAR面接とは通常採用活動に用いられており、過去にとった実際の行動を深掘りし、なぜその行動に至ったのか、どんな思考パターンで行動しているのかを把握するために有効な面接手法です。自社のハイパフォーマーに面談の時間を設けてもらい、STAR面接のように行動と思考を深掘り質問すると良いでしょう。関連記事:STAR面接(行動面接)の手法とは?メリットや質問例をまとめて解説ハイパフォーマーの特性を収集する中で、彼らにいくつかの共通点が見えてきます。例えば、「分析対象の多くが1時間以内にメールを返している。なぜなら早く返信して取引先を安心させたいと考えているからだ。」「社内でのちょっとした雑談を心がけていた。それが円滑なチームワークに繋がっている。」など、分析対象者の似ている行動や考え方を見つけましょう。それこそが自社独自のコンピテンシーです。社内で上位20%の成績を挙げている社員を中心に、上記に挙げた分析を行いましょう。③コンピテンシーの評価項目を決定①と②のプロセスで得られた情報を基に、最終的な評価項目を決定します。②の要素は、実際のハイパフォーマー複数名から情報を得ていることから、再現性がある可能性が高いです。一方、①の要素は理想ではあるものの、本当にその要素が高い成果に繋がるか、まだ明確には言えません。そのため、②の要素を中心に、①の要素を付け加える順で評価項目を取捨選択していくと良いでしょう。ただし、自社にハイパフォーマーと呼べる人材があまりいない場合は①の要素を中心にすることとなります。理想と現実のバランスを取りながら項目を設定していきましょう。評価項目の決定には以下の点に注意が必要です。会社の理念や戦略との整合性評価項目数の適正化各項目の重要度や優先順位部門や職階による違いの考慮評価項目は組織全体で共通のものと、部門や職階ごとに特化したものを適切に組み合わせることが望ましいでしょう。一方で、項目が複雑すぎると実際の評価が難しくなるため、評価項目の数は増やしすぎないことをおすすめします。④コンピテンシー項目の明文化・レベル分け決定した評価項目を明文化し、レベル分けを行います。この段階では以下の点に留意しましょう。具体的で観察可能な行動指標の設定各項目のレベル定義(通常3~5段階程度)評価者向けのガイドライン作成明確な行動指標とレベル定義を設けることで、評価の客観性と一貫性が高まります。特に評価項目の明文化については、曖昧さをなるべく排除して誰が見てもわかるようにすることが重要です。コンピテンシー評価の項目例こちらでコンピテンシー評価の具体的な項目例をご紹介します。コンピテンシー評価の項目作成には「コンピテンシー・ディクショナリー」を参考にすると良いでしょう。コンピテンシー・ディクショナリーとは、業種や職種問わず活用できるコンピテンシーを6領域20項目で体系的に整理したものです。■コンピテンシー・ディクショナリーコンピテンシー領域コンピテンシー項目1.達成・行動達成志向秩序・品質・正確性への関心イニシアチブ情報収集2.援助・対人支援対人理解顧客支援志向3.インパクト・対人影響力インパクト・影響力組織感覚関係構築4.管理領域他者育成指導チームワークと協力チームリーダーシップ5.知的領域分析的思考概念的思考技術的・専門職的・管理的専門性6.個人の効果性自己管理自信柔軟性組織コミットメント出典:ライル・M.スペンサー, シグネ・M.スペンサー著 ; 梅津祐良, 成田攻, 横山哲夫訳.コンピテンシー・マネジメントの展開 : 導入・構築・活用.生産性出版. 2001今回はコンピテンシー・ディクショナリーに含まれる6つの領域から、具体的な評価項目と行動指標の例を作成しました。自社のコンピテンシー評価の項目づくりの参考として、お役立てください。①達成・行動目標達成に向けた行動力や積極的な姿勢を評価します。自発的な行動、困難な状況での粘り強さ、効率的な業務遂行能力などが評価の項目例です。個人の意欲や行動が組織にどのように貢献しているかを測定します。評価項目例1:「計画・実行力」 行動指標例:レベル1:与えられた業務に対し、指示を待つことなく自ら行動を起こしているレベル2:与えられた業務に対し、達成までの適切な計画を立て、計画に沿って実行しているレベル3:問題を発見して課題化し、自発的に新しいプロジェクトや改善策を提案・実行している評価項目例2:「粘り強さ」 行動指標例:レベル1:困難な状況でも諦めずに業務に取り組み続けているレベル2:障害に直面した際、複数の対応策を考え、粘り強く課題解決に取り組んでいるレベル3:長期的な課題に対しても持続的に取り組み、周囲の協力を得ながら成果につなげている②援助・対人支援他者への支援や協力的な態度を評価します。同僚へのサポート、円滑なコミュニケーション、顧客への対応などが評価の項目例です。組織の一員としての振る舞いや、他者の成長にどれだけ貢献しているかを測定します。評価項目例1:「相互理解」 行動指標例:レベル1:他者の意見や考えを注意深く聞き、理解しようと努めているレベル2:異なる意見や立場を尊重し、建設的な対話を通じて柔軟に落とし所を見出しているレベル3:異なる意見や立場を尊重し取り入れ、社内外問わず、より多くの人と良好な関係と円滑なコミュニケーションができている評価項目例2:「顧客優先志向」 行動指標例:レベル1:顧客からの要望や問い合わせに対し、言われた通りに迅速かつ丁寧に対応しているレベル2:顧客からの要望や問い合わせに対し、期待通りのサービスに加えより良い解決策を提供しているレベル3:顧客の潜在ニーズを汲み取り、顧客も想定していなかったサービスや解決策を提供している③インパクト・対人影響力他者に与える影響力や説得力を評価します。コミュニケーション能力、リーダーシップ、交渉力などが評価の項目例です。自身の考えや意見をどれだけ効果的に伝え、周囲に影響を与えられるかを測定します。評価項目例1:「説得力」 行動指標例:レベル1:自分の意見や提案を論理的に説明できているレベル2:顧客の立場や意見を理解した上で、効果的な説得を行っているレベル3:複雑な状況や利害関係がある場面でも、関係者の合意を得られるよう粘り強く交渉している評価項目例2:「影響力」 行動指標例:レベル1:自分の役割を理解し、責任を持って行動しているレベル2:周囲の人々に前向きな影響を与え、チームの雰囲気を向上させているレベル3:組織のビジョンや目標をチームメンバーへ明確に示し、組織全体のモチベーションを高める行動をとっている④管理領域組織や業務の管理能力を評価します。人材の管理、プロジェクト管理、資源の効率的活用などが評価の項目例です。個人やチームの業務をどれだけ効果的に管理し、成果につなげているかを測定します。評価項目例1:「指導・育成」 行動指標例:レベル1:後輩や新人に対し、必要な知識やスキルを分かりやすく説明しているレベル2:部下や同僚の強みと弱みを適切に把握し、個々の成長を促す具体的な指導を行っているレベル3:部下全体の人材育成戦略を立案し、効果的な研修プログラムや育成システムを構築・実施している評価項目例2:「チームワーク」行動指標例:レベル1:チームの一員としての役割を理解し、他のメンバーと協力して業務を遂行している。レベル2:チーム内の情報共有を積極的に行い、メンバー間の連携を促進している。また、他のメンバーの業務状況を把握し、必要に応じてサポートを行っている。レベル3:部署や専門性の壁を越えた活動・情報共有を推進し、組織全体のシナジー効果を高めている。⑤知的領域分析力や創造性などの知的能力を評価します。問題解決能力、創造的思考、分析力などが評価の項目例です。業務上の課題にどれだけ論理的で有効な対応ができるかを測定します。評価項目例1:「問題分析」行動指標例:レベル1:与えられた情報を正確に理解し、どんな事象が起こっているのか自分で分析し考えている。レベル2:多角的な視点から情報を収集・分析し、事象を把握した上で対応策を提案できる。レベル3:組織全体や業界全体が関わるような複雑な問題でも体系的に分析し、長期的な影響も考慮した解決策を導き出している評価項目例2:「創造性」 行動指標例:レベル1:自身の携わる業務に関する新しいアイデアを積極的に提案しているレベル2:部署やチームの垣根を越えて、新たな事業や社内制度を提案しているレベル3:異なる分野の知識や経験を組み合わせ、全社経営や業界全体にもインパクトをもたらす革新的なアイデアを生み出している⑥個人の効果性自己管理能力や成長意欲などを評価します。時間管理、ストレス対応、自主的な学習などが評価の項目例です。個人がどれだけ効果的に自己を管理し、継続的に成長しているかを測定します。評価項目例1:「自己管理」 行動指標例:レベル1:期限を守り、与えられた責任を確実に果たしているレベル2:複数の業務を効率的に管理し、困難な状況でも冷静に対応しているレベル3:自己の強みと弱みを客観的に分析し、複数の業務を効率的に管理しつつ継続的な改善に取り組んでいる評価項目例2:「学習意欲」行動指標例:レベル1:指示された研修や学習に積極的に参加しているレベル2:業界動向や新技術に関する情報を自主的に収集し、業務に活かしているレベル3:自己啓発の成果を組織に還元し、周囲の学習意欲も高める取り組みを行っているコンピテンシー評価の項目を作成する際の注意点ここまでコンピテンシー評価の項目を作成する方法を紹介しました。コンピテンシー項目は作成できたとしても、実際に運用してみると上手くいかないことも多々あります。コンピテンシー評価の項目を作成する際は、以下の点に注意するようにしましょう。自社の組織文化にマッチしているかコンピテンシー評価の項目は、自社の経営理念や組織文化と整合性がとれていることが重要です。例えば、イノベーションを重視する企業であれば「創造性」や「変革力」といった項目が重要になるでしょう。一方、顧客満足度を重視する企業では「顧客志向」や「サービス精神」といった項目が重要になるかもしれません。自社の理念やビジョンとはかけ離れた評価項目を設定すると、被評価者の混乱やモチベーションの低下を起こす可能性が高まります。理想の人材を求めるあまり、組織文化と乖離した評価項目を設定しないよう注意しましょう。階層や職種ごとに評価は細分化されているか同じコンピテンシー項目でも、求められるレベルや具体的な行動は階層や職種によって異なります。例えば、「リーダーシップ」という項目でも、新入社員と管理職では求められる行動が大きく異なるはずです。そのため、評価項目やレベル定義は階層や職種ごとに適切に細分化する必要があります。ただし、あまり複雑にしすぎると運用が難しくなるため、細分化と簡潔さのバランスを取ることも意識すると良いでしょう。評価項目は具体的かつわかりやすく示されているか評価項目や行動指標は、具体的でわかりやすい表現を用いることが重要です。抽象的な表現では評価者によって解釈が分かれたり、被評価者が何を求められているのかを理解できなかったりする恐れがあります。例えば、「コミュニケーション能力が高い」という表現よりも、「自分の意見を論理的に説明できる」「相手の話しをさえぎらずに最後まで聞いている」のように具体的な行動を示すことで、より明確な評価基準となります。また、専門用語や難解な表現は避け、誰もが理解できる平易な言葉で表現することも大切です。評価項目の意味や意図について、評価者と被評価者の間で共通認識が得られるよう努めましょう。定期的に見直しを行っているか時代の変化は早く、世の中の価値観はアップデートされていきます。エースと呼ばれる存在の社員も、いつしか顔ぶれが変わっていきます。数年に一度評価項目の見直しを行い、自社の現状や時代に即していない項目があれば、再度その時点でのハイパフォーマーへのヒアリングを行いましょう。コンピテンシー採用するならback checkコンピテンシー評価は、従業員の能力や行動特性を客観的に評価し、効果的な人材育成や配置に活用できる優れた手法です。コンピテンシー評価の項目の作成には労力がかかりますが、適切な環境で適切な方向に人材を活かすことは企業の成長に大きく繋がります。人材戦略の1つとしてぜひ取り組んでみてください。また、作成したコンピテンシー評価項目は、既存の従業員への評価だけにとどまらず、採用にも活用可能です。明確に「求める人物像」が定まっているので、コンピテンシー採用を取り入れることで自社に合う優秀な人材を採用しやすくなります。関連記事:コンピテンシー面接とは?メリット・デメリットや質問例などを解説!ただし注意点として、面接の場で分かるコンピテンシーは「候補者本人が自覚している行動特性」に限られていることです。候補者と一緒に働いたことのある第三者から、人柄や働きぶりをヒアリングする「リファレンスチェック」も併用して採用フローに取り入れることで候補者が自覚していない行動特性も把握することが可能になります。株式会社ROXXが提供するオンライン完結型のリファレンチェックサービス「back check(バックチェック)」であれば、候補者の情報を登録するだけで安価かつ迅速にリファレンスチェックレポートを取得できます。コンピテンシーに基づいた採用を検討している人事担当者の方々、採用のミスマッチを減らしたいとお考えの方々は、ぜひback checkの導入をご検討ください。