ベンチャー・スタートアップへ転職するメリット・デメリット──昨今の転職マーケットを高野さんはどう見ていますか。高野:転職マーケットの状況については、求人情報・転職サイトのdoda(デューダ)が公開しているデータ「転職求人倍率レポート(2023年1月)」が分かりやすいと思います。求人数は前月比で101.6%、前年同月比で140%伸びており、求人数に関しては2020年9月から29カ月連続で増加し、過去最高値となっているそうです。こうしたデータからも分かるように、転職マーケット自体は堅調に伸びているのかなと思います。ベンチャー・スタートアップ業界に関しても、常に“人が足りていない”状態ですので、求人数は増加傾向にあります。特にここ数年は資金調達環境が活況だったこともあり、人材採用に力を入れるベンチャー・スタートアップは多かったです。ただ昨今はマクロ環境の変化によって資金調達環境も少しずつ悪化し、その影響を受けてか採用をストップする企業も出てきています。そういう意味では、調整局面に入りつつあるのかなと思います。──高野さんはベンチャー・スタートアップへの転職をメインに求職者を支援されています。ベンチャー・スタートアップ転職にすることのメリットはなんでしょうか。高野:大きく4つのメリットがあると思っています。具体的には「成長の機会が多くある」「経営者と近い距離間で仕事ができる」「多額の報酬を得られる可能性がある」「経営者としての能力を磨く事ができるチャンスがある」ということです。まず成長機会に関して、ベンチャー・スタートアップは日々やることも変わっていきますし、そもそも決まっていないことの方が多いので、自ら仕事を創り出していくことが求められます。大手企業のように充実した研修制度などはありませんが、その分現場に出て、幅広い仕事をこなしたり、ゼロから仕事を創出したりする経験が積めます。座学で学ぶのではなく、実際に現場に出ていくからこそ、必然的に成長機会も多くあります。また、ベンチャー・スタートアップは創業から間もないので、組織規模も大きくありません。そのため、必然的に経営者との距離も近くなります。経営者の近くで、事業や会社の戦略、日々の意思決定などを話せる環境があるというのは、ベンチャー・スタートアップならではです。経営者の近くで働きたい、という人にはエキサイティングな環境だと思います。それに付随して、ベンチャー・スタートアップが組織規模も大きくなく、役職者も少ないことから、きちんと成果を残せば早い段階で経営領域の仕事も任せてもらえるようになると思います。結果的に自分の市場価値を上げることにもつながるはずです。そして、ベンチャー・スタートアップは大手企業と比べて、給与水準がすごく高いわけではありません。転職して年収が下がるパターンも多くあるでしょう。それでもベンチャー・スタートアップに転職する理由は「ストックオプション」にあります。ストックオプションを保有した状態で会社が成長し上場すれば、会社員の給料では得られないような多額の報酬を得ることができます。もちろん、必ず多額の報酬を得られるわけではなくハイリスク・ハイリターンでもあるわけですが、会社の成長と自分の将来的な報酬が連動しているというのは、ベンチャー・スタートアップで働く醍醐味のひとつかもしれません。──その一方で、デメリットについてはいかがですか。高野:デメリットに関しては、メリットの裏返しになってしまう部分があるのですが、「同じことを続けられるとは限らない」「倒産リスクがある」「待遇や当面の年収は良いものではない」といったことが挙げられると思います。ベンチャー・スタートアップを取り巻く環境は目まぐるしいスピードで変化していくため、「ある決まった業務をやりたい」「この業務を極めたい」という人には向いていない可能性が高いです。変化が激しく、社内で果たすべき役割も状況に応じて変わるため、ゼネラリストの方が向いていると思います。また、待遇や当面の年収に関しても、ベンチャー・スタートアップは資金が潤沢にあるわけではないので、過度に高い給与や福利厚生を設定するのが難しいです。だからこそ、上場やM&Aなどの資金が潤沢になりやすいタイミングで社員の頑張りに報いることができるよう、ストックオプションの形式をとっています。「年収を上げる」という目的でベンチャー・スタートアップに転職することはおすすめしませんが、会社を成長させることで給料を上げ、ポジションを掴みたいという主体性のある方には向いているでしょう。そして最後に、多くの人がご存知のことかもしれませんが、ベンチャー・スタートアップの倒産リスクは高いです。例えば、スタートアップの創業10年後の生存率は“6.3%”とも言われています。倒産リスクが大きいからこそ、より慎重に、将来性のある会社なのかどうかを考えた上で転職先を選ぶ必要があります。“リファラル採用”などが浸透しつつある今、転職活動で持つべき「どこで働くか」という視点──ここ数年でベンチャー・スタートアップへの転職活動を進めるにあたって、意識すべきポイントは何でしょうか?高野:ベンチャー・スタートアップへの転職活動で意識すべきことは、転職後に活躍できる会社かどうかです。例えば、LinkedIn創業者のリード・ホフマン氏は自身の著書『ALLIANCE アライアンス』でも“どこで働くか”の重要性を説いています。意外と多くの人は“どこで働くか”を考えずに職種ベースで転職活動をしがちですが、会社探しにエネルギーと時間、自分の情報網を使うべきです。現在、毎年2800社がVC(ベンチャーキャピタル)などから資金調達していますが、上場している会社はほんの一握り。ほとんどの会社が上場できていないわけです。たくさんある企業の中から今のサイバーエージェント、メルカリになるような会社を見つけるのは至難の技です。誰もが探したいと思っていますが、見つけるのは簡単ではありません。だからこそ、仮に会社が上場できなかったとしても転職後に活躍できる会社なのかどうかを重視すべきです。転職後に活躍すればネクストキャリアに繋がっていきます。もし活躍できなければキャリアの選択肢が狭まってしまいます。そのため、まず第一に“転職後に活躍できる会社かどうか”という点は重視すべきポイントだと思います。あとは複数の会社を見て判断する、ということです。1社しか受けずに転職するのも良いですが、せっかく複数社見れるのであれば複数社見た方がいいと思います。特に日本の雇用環境を踏まえると、転職後すぐに退職してしまうのは大きなリスクになってしまうので、複数社を見た上で自分に最適だと思う会社を慎重に選んだ方がいいでしょう。昨今、転職において「リファラル採用」や「カジュアル面談」といった手法が浸透しつつあります。こういった手法は企業と個人がより出会いやすくなるという側面において画期的で、素晴らしいイノベーションだと思っています。一方、リファラル採用やカジュアル面談などが浸透したことで、深く考えず、安易な理由で転職する人が増えてしまった。例えば、転職理由を聞いても、「上司や先輩に誘われたから転職を決めた」と“転職のきっかけ”を話す人が多い。入社後に“何をしたいか”が明確にイメージできていないんです。そんな状態で転職してしまうと入社後のミスマッチの可能性も高まってしまいます。自分なりに情報を調べ、いろんな人から話を聞き、悩んで最終的に決めたのであれば、仮に失敗したとしても本人の糧になるので良いのですが、安易な転職はキャリアのリスクにもなってしまいます。その点は意識しておくべきポイントかもしれません。──ちなみに「転職後に活躍できる会社」をどう見極めるべきでしょうか。高野:中途採用の場合、同じ部署で働く人との面談が必ず用意されていると思います。その面談で具体的な仕事内容や会社の課題、事業部の課題を聞き、そうした課題を自分が解決できると思った会社に行くことを個人的にはおすすめしています。そのためにも、転職をする前に自分の強みは何か、客観的に分析しておくことは必ずやっておくべきでしょう。その会社が抱えている課題を認識し、それをすでに会社にいる人たちよりも、自分の方が効果的に解決できると思えるのであれば、それは素晴らしい転職になるはずです。──ベンチャー・スタートアップに転職して活躍する人材の条件は何だと思いますか?高野:ベンチャー・スタートアップで求められることは、兎にも角にも「結果」です。当事者意識を持って、いろんなことを能動的にやり続けられる。そういう人がベンチャー・スタートアップで活躍する可能性が高いですし、結果を出す確率も自ずと高まるはずです。また、ベンチャー・スタートアップは組織規模が小さいからこそ、さまざまな部署と連携して仕事を進めていく機会が多々あります。個人プレーが得意な人よりも、チームプレーが得意という人の方がベンチャー・スタートアップでは活躍できると思います。──逆にスタートアップ転職で失敗するのはどんな人ですか。高野:先ほど言ったことと逆の人です。結果が出る前に諦めたり、すぐに言い訳をしたり、他の人の責任にしたりする人は結果を出すのが難しいと思います。また、ベンチャー・スタートアップは細分化できていない仕事が多いため、あちこちにボール(仕事)が落ちています。そのボールを「自分のものではない」と言う人は結果が出せないでしょうし、逆に「自分のもの」だと思ってボールを拾い続けたり、他の人にパスを出せたりする人は将来的にマネジメント側にまわるなど、社内で昇進していく可能性が高くなります。──人事がスタートアップ転職希望者を面接する際、どのような点を重視してみるべきでしょうか?高野:これまでの仕事で残したきた成果の“再現性があるか”を重視してみるべきだと思います。その人がこれまで「会社の看板」で仕事をしてきたのか、それとも自分の力で仕事をしてきたのか。その点はより重点的に見る必要があると思います。また、ベンチャー・スタートアップはスペシャリストよりもゼネラリストが求められる傾向にあるので、ゼネラリストとして働くことが問題ない人かどうかも面接を通して見ておくべきでしょう。リファレンスチェックは非常に有効なもの入社後の「マネジメント」にも活用できる──高野さんは転職活動におけるリファレンスチェックの重要性をどうお考えですか。高野:面接だけでは得られない、採用候補者の経歴や実績に関する情報を一緒に働いたことのある“第三者”から取得できるので、リファレンスチェックは非常に有効なものだと思います。会社ごとにリファレンスチェックにかける時間と予算は異なるので、すべての会社がすべての採用候補者にリファレンスチェックを実施しているわけではないと思いますが、それでもここ数年で「リファレンスチェックの重要性」を認識した企業は増えたと思います。──リファレンスチェックによって企業の採用活動にどのような変化があると思いますか。高野:リファレンスチェックを実施するとなったら、いきなり音信不通になった人が最近いました。企業にとって、リファレンスチェックの最大のメリットは何か後ろめたいことがある人の採用を未然に防げるということです。SNSなどによって個人の不祥事などが可視化されやすくなっている今の時代、そういった人を採用してしまうのはコンプライアンスリスクにもなりかねません。それを未然に防げる点において、リファレンスチェックは効果的だと思います。また、リファレンスチェックの情報を入社後のマネジメントにも生かせます。「前の会社ではこうだった」という情報を鵜呑みにするのは良くないですが、参考にはなるはずです。それをもとにマネジメントすれば、入社後にパフォーマンスを発揮する可能性が高くはなると思います。──採用候補者がリファレンスチェックを受けるメリットは何だと思いますか。高野:転職先がリファレンスチェックの内容をもとにマネジメントしてくれる会社なのであれば、自分の特性や強みなどを知っておいてもらった方が、よりパフォーマンスを発揮しやすくなると思います。また、日本において他者から自分のフィードバックをしてもらう機会はほとんどないので、リファレンスチェックを通して自分のことを第三者に書いてもらうことはすごく貴重な情報にはなると思います。自分だったら、お金を払ってでも知りたいくらいです。──ありがとうございます。最後に2023年以降の転職マーケットについて、高野さんの予測を教えてください。高野:日本は少子化が進んでいくので、引き続き人手が足りない状況が続くと思います。“売り手市場”が継続するはずです。ベンチャー・スタートアップの転職マーケットに関しては1年前よりも成長しづらい環境だと思いますが、それでも資金調達は1年前と同じくらい行われると思うので、転職マーケット自体は横ばいで推移していくのではないかと予想します。最後までお読みいただき、ありがとうございました!ぜひ、下のシェアボタンから高野氏へ感想をお届けください。また、リファラル採用の成功事例やリファレンスチェックに対するイメージなどの投稿もお待ちしております。