資金調達環境は悪化傾向に、それでも日本に期待が持てるワケ──さまざまなことがあった2022年の動きを踏まえて、宮田さんは2023年の市況をどう予測しますか?宮田:スタートアップ業界ではすでに言われていることですが、インフレによる金利上昇に伴い、投資家たちがスタートアップの株を買わなくなってきています。ここ数年のトレンドとしては、上場企業を対象に投資をしていた海外投資家がレイターステージの日本の未上場スタートアップに投資をする流れがあり、大きめのIPOを目指せるようになっていたんです。ただ、インフレによる金利上昇によって投資家が投資を控えるようになり、資金の供給源が一気になくなってしまったことで、特にレイターステージのスタートアップに関しては資金調達の手段が限られてしまったり、ダウンラウンドでIPOせざるを得なかったりという状況になってしまった。また、これまでは比較的ステージの浅いスタートアップからはあまり影響が出ていないとは聞いてはいたものの、周りでも「資金調達の環境が厳しくなってきた」という話をちらほら耳にするようになったので、“冬の時代”に入ったのかなという印象です。 ── そうした中、先日政府は「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。宮田:世界経済が冷え込む中、日本では真逆の動きが起きていますよね。政府は2027年度にはスタートアップへの投資額を10兆円規模に引き上げる方針を示しているのですが、こうした方針が出ると実現に向けていろんな動きが活発化すると言われています。そうであれば、資金面に関しては日本独自の政策によって上手いことカバーできるのではないかと思っています。もちろん読みにくい部分もあり、必ずしもそうなるとは言えないのですが……。──今までは比較的、資金調達がしやすい環境だったこともあり、多額の資金を一気に集めて採用に投資し、人を集めていくスタートアップも多かったと思います。先ほど仰っていた資金調達環境の悪化をうけて、今後採用はどう変化していくと思いますか?宮田:去年から今年の前半にかけて採用が活発だったスタートアップが、今年の後半から採用をストップし始めている、という話を耳にします。その一方でLayerXさんなどを筆頭に、アクティブに採用を続けている会社もある。今後、どうしていくべきかを考えたときに、去年や今年の前半にかけて大型の資金調達を実行し、キャッシュ(資金)にまだ余裕がある会社はあえて採用をストップする必要はないと思っています。なぜなら、他社が採用を控え始めてるタイミングこそ、大きなチャンスがあると思っているからです。一方で、キャッシュに余裕がない会社は採用を止めざるを得ない部分もあると思うのですが、職種やポジションごとにメリハリをつけて採用していくのがいいのではないかと思います。“良い会社”であることが、採用の競争力につながっていく──人材採用の難易度も年々上がっている印象です。採用の競争性が増す中、どういった点が他社との差別化のポイントになると思いますか?宮田:プロダクト開発の世界には「良いプロダクトはマーケティングに力を入れなくても、自然と成長していく」という考えがあります。個人的には、この言葉が100%正しいとは思わないですが、これまでの経験を踏まえても「その通りだな」と思うことがあるんです。例えば、良いプロダクトの方がリード獲得のCPAが安い傾向にありますし、商談に行った際の受注率も高い。また解約率が低く顧客満足度も高いのでアップセル商材を買ってもらいやすく、ユーザーの口コミも広がっていきやすい。もちろん、セールス&マーケティングに注力することも良いプロダクトをつくることと同じくらい大事ではあるのですが、そもそも良いプロダクトであるかどうかが経営における勝率を大きく左右すると思っています。これは組織づくりにおいても同じことが言えます。やはり、どれだけ採用広報に力を入れたとしても、結局その会社が“良い会社”でなければ社員からの口コミは生まれにくいですし、離職も増えてしまう。その会社で「もっと頑張ろう」と思う人が減ってしまうので、結果的により多くの人材が必要になり、採用コストも増えてしまうんです。悪い口コミが出回ると、より採用難易度は高まります。プロダクトと同様に、良い会社をつくることが結果的には採用にプラスにつながると思い、良い会社づくりを意識してきました。──宮田さんにとっての“良い会社”の定義は何でしょうか?宮田:働きやすさも大事な要素のひとつではあるのですが、そこだけにフォーカスしてしまうと「良い会社に乗っかろう」というフリーライダーみたいな人が増えてしまいます。そうした要素はきちんと抑えつつも、一緒に働く人たちが実現したいことをきちんと実現できる環境を提供してあげられる会社が“良い会社”だなと思います。過去にSmartHRで人事を担当していた人が「良い転職とは、求職者が今の職場で得られなくて次の職場で求めていることを、次の職場がきちんと提供してあげること」と言っていて。本当にその通りだなと思うんです。SmartHRの代表を務めていた頃に、採用面接でお互いに求めていることが噛み合っていないなと感じる瞬間はそれなりにありました。例えば、自分たちが裁量を持って働くのが良いことだと思っていても、全ての求職者が仕事において裁量を求めているわけではないですし、逆に自由度が高い職場だと働きにくい人もいる。また、成長率が高い会社は社員のエンゲージメントが高いそうなのですが、肝心のエンゲージメントはどうすれば高められるかというと、福利厚生が充実しているかどうかよりも「社員の人が自分の強みを活かせている」と感じると高まっていくそうです。そういう意味では、万人受けする会社ではなく、働く人たちが自分の強みを心置きなく活かし、やりたいことを実現できる会社こそが自分にとっての“良い会社”だと思いますね。株式報酬の側面から、スタートアップをより良くする──2022年1月にSmartHRの子会社として、株式報酬の発行・管理・行使などを効率化するクラウド型ソフトウェア「Nstock」の開発を手がけるNstockを設立しました。創業から約1年ですが、採用は順調に進んでいるのでしょうか?宮田:最初の頃はめちゃくちゃ調子にのっていました(笑)。最初に求人を公開したタイミングで、すぐにたくさんの応募が来ていたので「これは1回目の起業のときより簡単かもしれない」と思っていたのですが、今はとても採用に苦労しています。特にエンジニアの採用が止まっていて、求人を出しても全然応募が来なくなってしまったので、Twitter上で「なぜ応募しないのか教えてください」とアンケートを出してみたんです。そうしたら、最も多かった回答が「事業領域に興味がない」というものでした。その結果を見たときに、SmartHRのときと似ているなと感じました。それこそ、SmartHRは人事・労務領域のサービスを開発しているわけですが、プロダクト開発など、人事・労務から遠い職種の人でそこに最初から興味を持っている人は少ないんですよね。それこそ当時、もし他の人が人事・労務関係のスタートアップを起業していても、自分は絶対応募していないと思います(笑)。だからこそ、 SmartHRのときは事業の面白みを少しでも感じてもらいやすいように、最初の頃は「国の手続きを変える会社です」と言っていました。そして、ある程度規模が大きくなってからは、SmartHRという会社自体の魅力をアピールするようにしていったんです。Nstockでも同じことをやろうと思っていて、まずは「スタートアップをより良くしていくため、日本経済を復興するため」という株式報酬を事業にする目的を伝えていき、その後に会社自体の魅力、良さを新たにつくっていき、それをきちんと伝えていく必要があるかなと思っています。── 数ある選択肢の中から、宮田さんが株式報酬をテーマに会社を立ち上げた理由は何だったのか。改めて教えていただけないでしょうか?宮田:この30年で日本とアメリカの経済格差は一気に広がっていったじゃないですか。ただ、その内訳をよく見ると、基本的にはGAFAMと呼ばれる大手IT企業の差分なんですよね。逆にいえば、それ以外の部分で大きな差はないということです。では、なぜこれまで差が広がってしまったのか。その大きな要因のひとつとして挙げられるのは「株式報酬」だと思っています。例えば、この記事を見ていただきたいんですが、Googleの親会社・Alphabetの時価総額は150兆円ほどですが、そのうちの2%(3兆円)を株式報酬として社員に配っているんです。一方、日本を見てみると、例えばソフトバンクさんでさえ13億円ほどしか配っていない。それでは優秀な人はスタートアップに流れてこないですし、社員の頑張りも全然違います。現金報酬は現金をもらった時点で終わりですが、株式報酬は会社の時価総額と連動していて、会社が成長して時価総額が増えれば株式の価値も高まる。つまり、会社の成長のために一生懸命頑張れば、結果的に得られる株式報酬がどんどん増えるわけです。現在、日本でアメリカ並みに株式報酬の仕組みを整えようとしているのは、メルカリさんやラクスルさんなどごく少数の会社に限られています。両社は株式報酬専門のチームを組成したり、ストックオプションを発行するオペレーションを整えたりして、きちんと戦える体制を作られています。とはいえ、他の会社がメルカリさんやラクスルさんと同じようにするのは難しい話だと思います。だからこそ、普通のスタートアップでもアメリカ並みに株式報酬の仕組みを整えて戦えるようにしよう、と思って立ち上げたのがNstockです。Nstockでは株式報酬に関する仕組みをソフトウェアで効率化することはもちろんですが、それだけではなく法律やそれこそスタートアップ側の慣習も変えないといけないと思っています。──スタートアップ側の慣習ですか?宮田:スタートアップを退職するとストックオプションの権利を失効してしまうことや、べスティング(段階的な権利確定)条件が上場日起点であることは、実は法律ではなく日本のスタートアップの独自の慣習なんです。現状のままではスタートアップで働くインセンティブになりづらく、これでは優秀な人材が海外スタートアップに行ってしまうのは当たり前なんです。そうした状況をNstockは変えられれば、と思っています。── 今後、スタートアップの採用競争力という観点でも、株式報酬の制度が整っているかどうかは重要な気がしています。その点についてはいかがですか。宮田:おっしゃる通りですね。ただ、制度が整っているかどうかというよりは、どちらかと言えば“思想”の話が強いと思っています。例えば、これまでの日本の慣習で言えば、給料は毎月支払われるものですが、退職しても「返して」とは言われないですよね?ところが、株式報酬は退職すると権利を失ってしまう。また、一昔前は最年少上場、最短上場がもてはやされていましたが、現在はスタートアップのIPOは長期化しており、上場まで10年くらいかかってしまいます。そうした中、「10年間退職しなければもらえる報酬」というのはもはや「ないもの」として頭の中から消えていきますし、やっとIPOしても、そこから更に数年かけて権利確定していくというものであれば報酬として意識されないのも当然かなと思います。そういう株式報酬にまつわる思想の部分を変えていく。退職しても権利を失効しないようにする、べスティング条件が上場日ではなく入社日起点にするといったような仕組みに変えていくことが重要なのではないかと思います。正しい採用の武器として株式報酬を機能させることができれば、規模が小さく資本力が乏しいスタートアップでは今まで採用できなかった人も、レバレッジをかけて採用できるようになる。そのために自分たちがきちんと武器として使いこなすための仕組みや知識やノウハウを提供したいと思っています。back checkは 採用の精度を高めるのに欠かせないツール──採用の武器という観点では株式報酬と同様に、リファレンスチェックの重要性も増していくと思います。その点では、宮田さんはSmartHR時代に初期の頃からback checkを活用いただいています。宮田:最初は「リファレンスチェックサービスというものがあるんだ」といった感じでした。リファレンスチェック自体、昔から採用において大切だという認識は持っていたのですが、具体的にどうやって進めていけばいいか分からなかったんですよね。やりたくてもやれない、と言いますか……。Googleの人事トップが書いた著書『WORK RULES!』には「通常の面接で判断できる情報の信憑性は14%しかない」といった内容が書かれていて。自分も面接をする中で「その通りだな」と思う部分があり、ずっと頭の中に残っていたんです。実際、組織規模が60人前後のタイミングで、自分が面接に出るのをやめました。自分だけの視点ではきちんとジャッジできないな、という思いがあったんです。その後、当時の人事主導でback checkを導入することになったのですが、導入後にback checkを通して書かれていたリファレンスを見て驚きました。back checkはリファレンスを書いてくれる人(推薦者)を選べる仕組みになっていることから、最初は良いことを書いてくれる人を選ぶから良いことしか書かれていないんだろうなと思ったら、全然そんなことはなくて。結構辛辣なことも書かれているんです。面接のときに良く見えていた部分が、現職で働いている人からは違ったように見えていて、それが推薦者3人とも同じことを言っていたら「これは採用していたら危なかったかも」と思いますね。実際、back checkのリファレンスで良い評価が多かった人は入社後も活躍してくれている比率は高いと思います。評価が低く出た方は、改めてお会いして懸念事項が本当にないかを確認することもあります。面接では見えない部分を見つけることができるので、採用における意思決定のサポートになっています。ミスマッチしそうな人を採用しないという観点でも役に立ちますが、他にはすごく評判が良い人かどうかも事前に分かるという観点でも役に立ちます。back checkを使っていると、自分たちが面接で見た以上に、現職の人たちからの評価がすごく高い人がいるんですよね。その場合、こちらがオファーを出す際、最初の想定よりも少し高めの年収を提示するなど、採用活動をよりポジティブなものにするという点でも非常に効果的です。採用の精度を高める、という点においてback checkはなくてはならないツールだと思います。──ありがとうございます。ちなみに現在Nstockで募集しているポジションはありますか?宮田:今はエンジニアを全般的に募集しており、あとはオウンドメディアの編集長も兼ねた1人目のマーケティング担当者を募集しています。──最後にNstockの今後について可能な範囲で教えてください。宮田:ちょうど先日、採用資料を公開したので、よろしければこちらを御覧ください。Nstockがやろうとしていることが伝わるかと思います。もしこれを見て、ワクワクして下さる方がいれば、一緒に国内スタートアップのエコシステムを強くし、日本からGoogleのような会社を生み出しましょう!Nstockでは、一緒に働くメンバーを募集しています!インサイドセールスの他、カスタマーサクセス、など、幅広い職種で採用強化中です。この記事を読んで少しでもご興味をお持ちいただけたら、ぜひご応募ください。最後までお読みいただき、ありがとうございました!ぜひ下のシェアボタンから、宮田氏へ感想をお届けください。また、スタートアップの採用で課題を感じることや、リファレンスチェックに対するイメージなどの投稿もお待ちしております。