挑戦と失敗を重ねた転職「現場にいたい」という正直な気持ちがキャリアを築いた──ブルーボトルに広報・人事マネージャーとして入社されていますが、それまでも人事のキャリアを歩まれていたのでしょうか。井川:元々「人」への興味は強い方でした。新卒で入社したのは人材派遣の企業でしたし、就活時の職種別採用では基本的に人事を志望していました。結果的に、新卒入社した企業で新規事業の販促広報を担当することになり、広報のキャリアも同時にスタートしていくのですが。その後、転職した2社目のインキュベーション企業でも、入社時は人事としての採用でした。しかし、入社して3ヶ月ほど経った頃、社内の広報部門の立ち上げを担当することになったんです。新規事業の立ち上げについてもっと深く知りたいと思っての転職だったので、拍子抜けではありましたけどね。広報部門の立ち上げが落ち着いた後は、投資先であるベンチャー企業の広報を何社か担当しました。外部からではありましたが、立ち上がっていくベンチャーを広報としてサポートするという経験が、その後のキャリア選択にも影響していると思います。──その後のキャリアについて、転職が上手くいかなかった時期もあったとお伺いしました。井川:転職して1年が経った頃、自分の中でモヤモヤが募っていた時期がありました。当時は結婚しており、30歳を目前にして「子どもを産まなければ」というプレッシャーを感じていたことに加えて、仕事も忙しく、深夜2〜3時まで働きながら、朝は5時に起きてお弁当を作るという毎日を過ごしていました。日々の仕事には問題なく取り組めていたのですが、目の前の業務に対して「これを積み上げて何になるんだろう」と、漠然とした不安や不満を感じるようになっていきました。とにかく忙殺されていて、長期スパンでキャリアと向き合えなかったんですよね。仕事とプライベート、どちらに対してもモヤモヤが募ったことで、2度目の転職を考え始めました。「30歳くらいまでに転職して、2年くらいで成果を出して産休を取ろう」という計画のもと、産休や育休の制度が整っている大企業を中心に転職活動を行い、結果的に30社ほど応募したのですが、全て不採用でした。でも、受からなかったことで「今の会社で踏ん張ろう」と吹っ切れるきっかけになったんです。その後、離婚をしたこともあって頭にあったライフプランも白紙に戻り、そのままトータルで4年半ほど務めました。改めて仕事に向き合って、自分はベンチャーやスタートアップの現場で働くことが好きだと再認識しました。それから次のステップに進むため、3社目の転職先として選んだのがリヴァンプ社でした。──今度は条件だけはなく、「好きなこと」をベースにして臨んだ転職だったのですね。なぜリヴァンプ社を選んだのでしょうか。井川:当時、日本に上陸して話題になっていた「クリスピークリームドーナツ」の日本での経営を支援していたのがリヴァンプ社でした。ブランドとしては本国で長い歴史を持っているけれど、日本展開する時点ではベンチャーであるという、特殊なステータスに面白みを感じました。海外のブランドを日本にローカライズさせるうえで、自分が培ってきた広報やマーケティングのスキルが活かせそうだと考えたんです。私がリヴァンプ社に入った時は、「アンティ・アンズ」というアメリカ発の世界最大級のソフトプレッツェル専門店が日本市場に参入するタイミングでした。ゼロから店舗出店し事業規模を拡大するところまで、広報や人事など管理部門の全般を管掌する形で計4年半ほど担当しました。──3社目でも人事をされていたのですね。井川:そうなんです。実は、その後に転職したトリドール社でも、人事業務を担当することになりました。「アンティ・アンズ」が順調に拡大し、自分の中でもフェーズの変化を感じていたこともあり、次の挑戦をしてみようと転職を決めました。トリドール社は「丸亀製麺」などを展開している企業で、ちょうどハワイに別ブランドを出店するタイミングで声をかけていただきました。日本のブランドを海外へ持っていくという、それまでと逆の状況での挑戦でした。日本とハワイではライフスタイルや働くことそのものへの感覚が大きく異なるので、組織として人をマネジメントするうえでも難しいことがたくさんありました。例えば、店舗が営業開始しているのに従業員であるキャストが出勤してこない日があって。心配になって電話をかけたら、海の音をバックに「今日は波が良いからサーフィンをしたい」と言われてしまったこともありました(笑)そうしたカルチャーの違いに翻弄されつつも、こちらの感覚を押し付けてばかりでも仕方がないので、場面ごとにしっかり対話を重ねてルールを決めながら進めていきました。日本にいる上司に、現地との感覚の違いを説明しながら信頼関係を築いていくこともとても大変で、私は海外ブランドを日本に持ってくる方が向いていると実感しましたね。リファレンスチェックを通して知りたいのは、失敗そのものではなく失敗から何を学んでいるか──ブルーボトルの日本上陸は、当時から注目を集め話題になっていました。店舗に立つバリスタは「ブランドの顔」と言っても過言ではないと思いますが、採用は井川さんがご担当されていたのですか。井川:日本で1店舗目となる清澄白河店のバリスタ募集時には、約400名の応募がありました。一部は私も面接を行い、最終的に9名を採用しました。バリスタの採用で注目していたのは「柔軟性があるか」という点です。オープンしたばかりの時期は、決まりきっていないこともたくさんありますし、現場で考えて判断することも多い。マニュアルのない不明瞭な状態を乗り越えられるか、という意味で柔軟性が重要になってくるんです。さらに具体的な基準として、「一歩先の気遣いができるか」という話をよくしています。お客様が来店されたとき、通常であれば「いらっしゃいませ」で良いかもしれないけれど、常連様だったら別の声かけをしてみたり、コーヒーを待っている間、暑そうにしていたらお水をご提供してみたり。目の前のお客様の状態を想定して、一歩先の気遣いができるかがブルーボトルのホスピタリティだと定義しています。──スキルが高くて即戦力になるかという点をつい最優先に検討してしまいそうになりますが、ブランドの方針に合わせて採用されていたのですね。オフィスメンバーの採用はどのような基準だったのでしょうか。井川:最も注目していたポイントはオフィスメンバーだからこそ「店舗をケアする意識があるか」という点です。言い方を変えると、「私たちのお給料は店舗でバリスタが淹れた1杯およそ500円のコーヒーで生まれている意識を持てるか」ということ。そういった点を見極めるために、面接はあえて店舗で実施していました。バリスタがお水持って来てくれたときに「ありがとうございます」と自然に言えるかどうか、椅子を引きっぱなしで帰らないか、など細かい点を確認するようにしていましたね。立場や上下関係に縛られず、誰とでもフラットに接することができるかどうかは、オフィスメンバーだからこそ大事だと当時は考えていました。加えて、これはバリスタにもオフィスメンバーにも共通して言えることですが、「踏ん張る力があるか」にも注目していました。この力は、挫折経験の有無が関係していると個人的には思っています。ある程度の挫折を経験したことがあると、人の心の痛みを想像することができたり、自分の弱みを見せやすくなったり、チームで動くうえでプラスに作用することが多いと考えています。たとえ華麗で非の打ちどころのない経歴の持ち主だとしても、肝心な場面で踏ん張れるかどうかは別の話なんですよね。──リファレンスチェックを通してどのような点を確認していましたか。井川:候補者が面接で話していることと、リファレンスチェックでの評価が一致するかどうかという点を見てました。例えば、挫折経験について質問したとき、面接ということもあって良いように振り返って話してしまうケースもあって。挫折経験ですから、自分が悪かった点や至らなかった点もあるはずなんです。本当に自分が悪かったと思っていたら、「当時はこう考えていたけど、今ならこう考えて行動する」という形で回答できると考えています。当時の事象を多少都合の良いように話してしまうことは、候補者本人の中で完全には腹落ちしていないということの表れでもありますから、同じ失敗を繰り返してしまう恐れも少なからずあります。本当に聞きたいのは、挫折や失敗をしたことそのものというよりも、そこから何を学び、どのように進化してきたかという点です。「自分にとっては失敗に思える経験でも、話してみたら何てことない」ということは意外と多いのではないでしょうか。領域を超える「共通の言葉」でメンバーが自走する環境をつくる── ブルーボトルでは入社後、約半年で取締役に就任されましたが、当時はどのような役割を期待されていましたか。井川:海外のブランドが日本の市場に進出する流れは、ビジネストレンドとして今も続いています。当然、衰退して撤退するブランドもある中で、私の使命は「ブルーボトルを残るブランドにすること」だと考えていました。そのために最初から掲げていたのが「ブームから文化へ」という言葉です。採用に限らず、すべての領域において指針となるものでした。リヴァンプ社に在籍していた時に痛感したのが、広報の仕事は「ブームをつくる」ことだということ。それに伴って、店頭に行列ができるような状況をつくることや、数多くのメディアに取り上げられることがKPIとなります。しかし、そこだけにとらわれてしまうと、ブランドを消耗するだけで終わってしまう。「残るブランド」にするためには「文化をつくる」必要があると考えました。文化をつくっていくにあたって、まず取り組んだのが徹底的な言語化です。ブルーボトルで提供できることは何か、スペシャルティコーヒーとは何か、サードウェーブとはどういうことか。コーヒーにまつわる言葉をブルーボトルらしく伝えていくことで、文化が醸成されていくという考えです。広報はそうしたことをメディア向けに伝えながら、同時に店舗においてもバリスタからお客様へ伝えてもらえる環境を整える必要があります。お客様に「シングルオリジンって何?」と質問されたら、分かりやすくお答えできるようになっていないといけない。これはバリスタ一人ひとりがお客様に「知ってほしい」という気持ちを抱いて、自走して初めて実現できることです。オフィスメンバーも例外ではありません。例えば、経理なら「文化にするためには1店舗だけでは終われないから、多店舗展開に向けて予算を管理しよう」というように、一つの方向に向けて足並みを揃えていく必要があります。すべてをマニュアルに落とし込むことは不可能だけれど、「文化にする」ためにそれぞれの役割を果たしていこうという話をよくしていました。── 最後に、ブランドの方針を採用戦略に落とし込むうえで意識されていたことを教えてください。井川:担当する領域が異なっても、それぞれの立場で解釈することができる「共通の言葉」を掲げることが重要だと考えています。私たちは「ブームから文化へ」でしたが、もし「コーヒー」に絞った言葉にしていたら、オフィスメンバーは何となく “自分ごと” にしづらかったと思います。ブランドの方針を分かりやすい言葉で表現することで、採用においても求める人物像について考えやすくなるのではないでしょうか。そして、そこから導き出されたポイントをきちんと候補者にも共有すること。例えば、バリスタにはコーヒーの提供と同時に会話のやりとりを通してお客様にブランドを伝えてもらいたいので、「人に興味があるか」という点も重要です。バリスタによっては、静かにひとりでコーヒーと向き合いたいという気質の方もいらっしゃいますが、ブルーボトルと相性が良いとは言えません。「私たちはこういうことを目指しているブランドだけど大丈夫そうですか?」とはっきり確認することが、双方にとって良い結果をもたらすのだと思います。私の根底にあるのは、「自分だけで全部はできない」という考え方です。メンバーを信頼しているからこそ「共通の言葉」を掲げ、それぞれが自走できる環境をつくることが大事だと思っています。最後までご覧いただき、ありがとうございました!リファレンスチェック・コンプライアンスチェックサービスの「back check」は、Web上に候補者の情報を登録するだけで、面接では見抜くことが難しい情報を取得することが可能です。リファレンスチェック・コンプライアンスチェックの実施経験がないご担当者様や、利用方法・運用に不安をお持ちのご担当者様でも、簡単な操作ですぐに利用することができます。ぜひこの機会に「back check」の導入をご検討ください。