田中 聡
立教大学
経営学部 准教授
株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。2010年に同社グループの調査研究機関である株式会社インテリジェンスHITO総合研究所(現株式会社パーソル総合研究所)の立ち上げに参画。2018年より立教大学 経営学部 助教、2023年4月より現職。働く人とチームの学習を研究している。主な著書に『経営人材育成論―新規事業創出からミドルマネジャーはいかに学ぶか』(東京大学出版会)や『チームワーキング ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『「事業を創る人」の大研究』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
Introduction
「顧客のニーズを満たす商品やサービスを提供していれば良い」という時代は終わった。モノに溢れ、人々が何不自由なく生活できるようになった今、顧客の抱える課題やニーズはそう簡単に顕在化してこないからだ。企業は顧客の問題を見つけて解決するのではなく、未来のありたい姿を想像し、現状とのギャップから顧客の新たな欲求を生み出さなければならなくなってきている。
「これまでにない新たな価値を生み出す組織には、従来とは違うチームワークが必要になってくる」と、立教大学 経営学部の田中聡准教授は語る。一人の強いリーダーのもとで、与えられた仕事に従順に取り組むメンバーのチームからは、これまでにない新たな価値は生まれにくく、不確実性に順応していくことも難しい。では、この時代に適したチームワークとはどのようなものか。
「人とチームのブレイクスルーを科学する」をテーマに、“人・チーム”にまつわるさまざまな課題に対して、人的資源管理論・組織行動論の立場から実証的な研究に取り組んでいる田中氏に話を聞いた。
田中:そもそも企業はこれまで「当社は何のために存在するのか」ということをあまり深く考える必要がありませんでした。そのようなことを考えずとも、手元には売れる商品やサービスがあり、目の前にはそれを継続的に購買してくれる顧客がいたからです。
そうした環境で効果を発揮するリーダーシップスタイルの典型は、リーダーが自分で腕まくりをして率先してやってみせる「率先垂範」タイプでした。メンバーはリーダーの背中を見ながら、その所作を真似て熟達していきます。
次に多いリーダーシップのスタイルは、「指示命令」タイプです。リーダーが単独でチームの目標・計画・役割分担を考え、タスクをメンバーひとり一人に落としていく。「四の五の言わずにこれをやれ」というスタイルです。
しかし、産業構造の変化や事業の新陳代謝が激しくなる中で、自社の主力事業が一気に衰退したり、あと数年で消えるということもめずらしい状況ではなくなりつつあります。こうした変化を踏まえ、これからのリーダー人材は「自分たちが所属する企業は何のために社会に存在しているのか」「自分たちの仕事は世の中にどのように貢献しているのか」といった社会起点で自分たちの存在意義を語ることが今まで以上に重要になってきていると言えます。
経営のトップは、社会における自社のパーパス(存在意義)、自社が果たすべきミッション(社会的役割)を示す。ミドルマネージャーは、それらを自分の言葉に置き換えて、チームとメンバーそれぞれが目指すべきビジョンを掲げる。ビジョンは将来のありたい姿であり、ワクワクする未来像のようなものです。ビジョンが見えてくると、メンバーは自分たちのバリュー(価値)と向き合うようになる。その上で、どういう行動規範を持って目標を成し遂げていくべきかを自分たちで考えるようになります。
ただし、個人のビジョンは一人ひとり異なるものです。今、ビジネスパーソンは、極めてパーソナルなビジョンを求めています。なぜ自分がこの企業で働き、なぜ今この仕事をしているのかをしっかりと腹落ちした状態で日々働きたいと思っています。ですから、ミドルマネージャーは単に上から降りてきた言葉をそのまま下に伝達するのではなく、自分自身の言葉で各メンバーが持っているパーソナルなビジョンと紐づけて、それぞれの文脈に合わせながら語りかけることが求められているのです。それができないままでいると、メンバーのエンゲージメントは低下し、他社に転職を考えるようになるでしょう。非常に高度なマネジメントスキルが問われる時代に入ってきたとも言えます。

田中:人はより代替不可能な領域で働いていく必要があるのだろうと考えています。これまでビジネスパーソンには、問題解決能力が求められてきました。しかし今、問題解決策、いわゆる「ソリューション」というものが溢れています。デジタル技術や最新の生成AIに頼れば、人間の知能では到底処理できないほどの膨大なデータベースの中から適切な問題解決策を示してくれます。問題解決の分野で人の強みが活かせる領域は限られていると言えるでしょう。ですから、これからは人は潜在的な問題を発見したり、問題を新しくつくることに取り組むのが大切な役割となっていくのではないでしょうか。
問題とは「ありたい姿と現状とのギャップ」です。日常生活における不便さがたくさんあった時代には、ありたい姿を構想せずとも「現状に対するみんなの共通の不満」がそのまま「解決すべき問題」として顕在化していたのです。顧客はお金を払ってでもその問題を解決してほしいと思っているので、企業は顧客の声に忠実に、その問題を解決することができたわけです。しかし、私たちの生活が少なくとも物質的な豊かさを実現し、何不自由なく暮らせるようになった今、「問題」を見つけることがとても難しくなりました。
従来のマーケティングでは、「この商品の使い心地はどうですか」「どんな機能がほしいですか」と顧客に尋ね、その意見をどんどん取り入れていました。例えば、かつての携帯電話市場がそうでしたね。日本のメーカー各社は丹念に顧客調査をし、「もっとこういう機能があれば」という顧客の意見を忠実に取り入れ、機能を満載した新商品を半年に一回の頻度で世に出していました。もはや素人目には何が新しい機能なのか、どこが新しくなったのか、さっぱり見分けがつかないような状態でした。
そんなあるとき、携帯電話市場で全く実績のなかったApple社から「iPhone」が発表され、わずか数年で巨大なマーケットのほとんどを飲み込んでいったという出来事がありました。Apple創業者のスティーブ・ジョブズ氏は顧客の声ではなく、「こんなものがあったらカッコいい」「こうすれば世界を変えられる」という自分たちの「ありたい姿」からワクワクする未来を提起して、これまでになかったニーズを新たに生み出したわけです。
つまり、顧客が抱える不満を解消するという意味での問題定義は、もう難しくなってきている。ありたい姿・ワクワクする未来をゼロから構想して、問題をつくる。それが人の役割ではないでしょうか。
田中:厳しい話ですが、過去のスキルや経験はこれまでよりも価値を持たなくなるのではないかと考えています。なぜならこのような不確実な環境下では、スキルや経験はどんどん陳腐化していくからです。今から10年後、20年後に求められるスキルは何かなど予測不可能です。
転職市場ではスキル重視の採用が当たり前です。ただし、刻一刻と世の中が変わり、ジョブも変わっていくので、求められるスキルも変わっていく。「これを持っていれば安泰だ」というようなスキルは予測しづらいのです。これからのビジネスパーソンに重要なのは、その時々で必要になるスキルをストレスなく学び、習得する姿勢を養うことです。

田中:チームワークの重要性は増していると考えています。ワクワクする未来を構想してそれを実現しようと思えば、当然一人でできることには限界があり、「チーム」が必要になります。ですが、時代は超人手不足社会。潤沢に人を採用することはできません。限られたメンバーでどうやってチームとして最大限のパフォーマンスを出すか。それは言うまでもなく「チームワーク」の問題です。
まずチームとは何か。3つの要件があります。1つ目は「2人以上の集団であること」。しかし、これだけではチームではありません。渋谷のスクランブル交差点を歩いている人の集団をチームとは呼ばないですよね。2つ目は「共通の目標があること」。だいぶチームに近づきましたが、これでチームが成立するわけではありません。例えば、映画館で同じ映画を観て感動している集団をチームとは呼ばないでしょう。そこで3つ目が「相互に関わり合っていること」です。これらをまとめると、「チームとは、共通の目標のもとに集い、お互いに影響力を与え合いながらある物事を達成しようとする社会的な集団」だと言えます。
しかし、今は企業という組織におけるチームがチームたり得ているのかが問題になっています。チームが崩壊しているケースが少なくなく、コロナ禍によってその傾向は強まったと思います。
田中:まず多くの企業の現場において、何を目指したら良いのか?という共通の目標があやふやになっています。「自社が何を目指しているのかが分からない」「上司が何を考えているのかが分からない」など、目指すべき北極星・パーパス・ビジョンといった重要な指針がぼやけてしまっているのです。そうなってくると、集団は必ず横にいるメンバー同士を見合うようになります。「Aさんって元気ないよね」「Bさんってあまり仕事していないのに良いポジションについているよね」と、お互いの存在が気になり始めてくる。
そこに「関係性の質を高めよう」と考える人が現れ、さまざまなイベントやツールを導入しようとする。目標達成のための手段であったはずの「関係性の質」を高めることを目的化し、仲良くしようとするのですが、その多くはうまくいきません。なぜならそもそもの目標がぼやけているからです。
関係性の質が目的化した集団にとって、最も恐るべきは「摩擦(コンフリクト)」です。ですから、コンフリクトを避けるために、メンバー同士が仕事面での関わりを最小限にとどめようとして分業化をします。「Aさんの仕事はここからここまで」「Bさんの仕事はここからここまで」と、役割を明確に分けて各々の仕事に集中することで、他人の仕事に関心を持ちにくくなります。チームの3つ目の要件である「相互に関わり合うこと」をやめてしまうのです。
このようにしてチームは崩壊していきます。そうなるとチームのメンバーは嫌気が差して、転職をしたり部署異動を希望したりします。そして、チームを構成する最も基本的な要件である「2人以上の集団」すら消滅してしまいます。

田中:リーダーもメンバーも同じ意識を持つことが重要です。ポイントは3つあります。1つ目は「チームは生き物であることを理解する」。チームとは動的な存在です。右肩上がりに良くなるだけのものではなく、波があり、良い時も悪い時も繰り返しながら進んでいく。その前提を正しく認識することです。
2つ目は「メンバー全員がリーダーの視点を持つこと」。リーダー単独の視点には限界があります。メンバー全員が上空から今のチームを眺めているような感覚で、お互いに状況を分析してシェアする。リーダーにも見えていない視点がきっとあるはずだという感覚を全員が持ちながら、それを見つけてお互いに交換し、“私たち”としての視点を持つのです。
3つ目は「目標をホールドすること」。目標設定をすることが大事だとよく言われますが、それと同じかそれ以上に重要なのは「目標を握り続ける(ホールドする)こと」です。目標というのは、立てた瞬間から忘れられていく運命にあるもの。ですから、リーダーは自分たちの目標が何であったかを繰り返し何度もメンバーに伝える必要がありますし、メンバー同士が指差し確認し合うことが大事なのです。
田中:難しいと思います。もちろん面接で「このようなケースではどうしますか」などの質問を投げかけることによって、採用担当者は行動特性を見抜こうと努力しますが、多くの候補者は面接においてポジティブな返答をします。そのため、より本質的な部分と向き合うという意味で、リファレンスチェックが非常に役立つと考えてます。やはり過去一緒に働いたことのある人からの声に勝るものはありません。

田中:そう思います。加えて、リファレンスチェックは採用する企業だけが得をするツールではないと考えています。候補者にとっても、働いたことがない環境に行くわけですから、ありのままの自分でその企業の求める働き方にマッチするのか、未来の自分がどれくらい活躍できるのか、社風と合うことになるのか、といったことを入社前にある程度予測しておきたいですよね。
リファレンスチェックは、候補者本人のことを理解してくれている人や信頼している人に推薦者としてリファレンスの回答をお願いすることになると思います。すなわち、その転職に肯定的な人や応援してくれる人に自分の評価および推薦をお願いするわけです。信頼関係がある場合、推薦者は転職希望先の企業と候補者がマッチするかどうかを考えてくれるはずです。自分一人でその企業を見るよりも、自分をよく知ってくれていて信頼できる複数の人の目でその企業を見る方が、安心でありメリットがあるのです。
人間の持っている価値が発揮できるかどうかの条件に、AMOというものがあります。Aはアビリティ=能力、Mはモチベーション=やる気、Oはオポチュニティ=機会です。この3つが揃わないと、人は価値を発揮できないのです。
転職活動はAとMのマッチングばかり注目されがちですが、Oも非常に重要です。この人が本当に価値を発揮できる機会があるのかどうかを、複数の人の目で見ることも大事なのです。相互に深いところで確認ができ、理解し合うことができる手段の一つがリファレンスチェックだと思います。
リファレンスチェックの導入は、企業にとっても良いきっかけになると思います。リファレンスチェックを候補者にお願いするということは、これまでにはない一つの手間をお願いするということでもありますから、自社の情報をこれまで以上に提供して、候補者に理解してもらおうとするでしょう。そのプロセスで、求める人物像、なぜ今採用が必要なのか、採用したメンバーにどのような役割を与えてどのような活躍を期待するのか、仕事の魅力がどこにあるのか、といったことを整理することにつながるからです。単に効果的なツールとして導入するのではなく、自社の採用のあり方そのものを見直していくきっかけにもなるのではないでしょうか。

最後までご覧いただき、ありがとうございました!
リファレンスチェック・コンプライアンスチェックサービスの「back check」は、Web上に候補者の情報を登録するだけで、面接では見抜くことが難しい情報を取得することが可能です。リファレンスチェック・コンプライアンスチェックの実施経験がないご担当者様や、利用方法・運用に不安をお持ちのご担当者様でも、簡単な操作ですぐに利用することができます。ぜひこの機会に「back check」の導入をご検討ください。

最新の記事
【井川沙紀】広報・人事の経験から導き出した答え 「残るブランド」をつくるため、採用に必要なものとは
【田中聡】不確実な時代に必要なチームワークの本質とは
【伊藤羊一】マネジメントは縦型から横型へ 価値観の違いを理解し「可能性を解き放つ」のがリーダーの役割