縦型から横型の時代へ、変わるリーダーのあり方──昨今、「人的資本経営」や「自律型組織」といったキーワードが大きな注目を集めるようになっています。なぜここまで関心が寄せられているのでしょうか。伊藤:最近は「人的資本経営」や「自律型組織」といったキーワードを耳にする機会が増えています。しかし、よく考えてみると「人的資本経営」で言われている「人材を企業の“資本”ととらえ、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値の向上へと繋げていく」というのは、当たり前のことだと思うんですよね。なので、これだけ「人的資本経営」が注目を集めるようになっているのは、日本の企業の多くがそれを実践できていないことの現れだと考えています。ひと昔前の一般的なマネジメントスタイルはいわゆる「縦型」の時代で、分かりやすい正解があり、部下は上司が言ったことに従っていればそれで良かったし評価もされていた。ただ、1995年にWindows95が登場し世の中にインターネットが普及するようになってからは、パフォーマンスにおいて付加価値が求められるようになった。モノづくりの時代からサービスづくりの時代に変化しているんです。その結果、企業におけるマネジメントに限らず、社会全体においても「縦型」から「横型」の時代になってきています。インターネットの普及により、個人の思いをより自由に発信できるようになり、一人ひとりの考えに目を向ける重要性が年々高まっていると言えます。欧米などの海外ではそういった変化がもっと早くから起きていたのですが、日本ではしばらく変化が起きないまま時間だけが過ぎてしまった。「さすがに今のままではヤバい」となり、「人的資本経営」というキーワードを旗印にして、個人の考えや価値観に目を向けていきましょう、という流れに組織も社会も向かい始めました。端的に言ってしまえば、「一人ひとりの考え方を大切にすることが人的資本経営である」ということです。個人的には「今さら遅すぎるだろう」と感じる部分もありますが、「人的資本経営」というキーワードとともに世の中が変革していくのであれば、それ自体は良いことだと思います。──「縦型」から「横型」の時代に変化する中で、リーダーのあり方も大きく変わってきそうです。伊藤:その通りです。リーダーシップやマネジメントのあり方は、過去のスタイルを引き継いでしまいがちであり、結局のところ人は自分よりも立場が上にある人を見て育つじゃないですか。「縦型」の時代においては、どれだけスムーズに上から下へ正確かつ迅速に指示を通せるかが大事でした。これ自体は全く悪いことではなく、その時代においては最適な手法だったと思います。しかし、時代の変化とともにリーダーに求められる役割も明らかに変化してきた。社会の不確実性が高まり、何が正解かも分からなくなった時代においては、従来の手法でカバーできる範囲と深度に無理があります。そのため、組織に所属する一人ひとりの考えや価値観に耳を傾けるファシリテーション力と、今はまだ顕在化していない才能や情熱を引き出すコミュニケーション力が求められるようになってきています。まさに「横型」の時代です。全体にはファシリテーション力を発揮し、個人には1on1などの機会を通して考えを聞き、能力を引き出す。これが今のリーダーに求められる役割です。一人ひとりが最大限に力を発揮できるよう、いかに環境を整えられるかが大事になってきています。ただし、コロナ禍などの有事の際は「とにかく私を信頼してまずはついて来てほしい」というリーダーシップが絶対に必要です。有事においては「Follow Me」、平時では「After You」というスタンスの切り替えが大切。有事の際にも「みんなの意見を聞くよ」という姿勢でいては、方向性が定まるのにも時間がかかってしまい、メンバーも困ってしまいますから。「こういうことをやっていこう」「こうしなきゃいけない」などの考えを示す必要があります。──リーダーには「聞く力」が求められるようになってきている。伊藤:まさにそうです。リーダーはメンバーの可能性を解き放つのが仕事になるので、それを実現するためには一人ひとりの考えや価値観を聞いてみないと分からない。よく日本では仕事に対してネガティブな言葉が使われがちですが、本当は誰もが仕事で力を発揮したいと思っているはずなんですよね。実はそこまで仕事に対してネガティブな姿勢の人は多くないと、私自身もこれまでのキャリアを通じて感じています。ネガティブな言葉が多く、壁をつくっているように感じる場合は、きっと過去に何か原因となる体験があったはず。その何かを丁寧に聞き出して一緒に取り除いてあげれば、前向きな姿勢で仕事へ取り組めるようになると思います。仕事との向き合い方やキャリア観などは人それぞれ異なるので、きちんと聞いて理解することが大切です。「物事をロジカルに考えられない」「業界知識がない」「性格が若干尖っている」などはネガティブな面ではなく、あくまで個性です。そういった個性を理解し、パフォーマンスを発揮できるようにサポートする。決して簡単なことではありませんが、リーダー自らがそこにエネルギーを注いで向き合っていくことで、結果的に組織・チームの可能性も広げることができるでしょう。──伊藤さんが一人ひとりの可能性を解き放つことの可能性を感じ始めたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。伊藤:私が26〜27歳の頃だったと思います。メンタルダウンしてしまい、会社に行けなくなってしまったことがあるんです。新卒で入社した銀行の世界になかなか馴染めず、「この先もし出世ルートから外れてしまったらどうすれば良いのか」ということばかり考えていて。学生生活は麻布中学校・高等学校に通い、東京大学に進学し、なんとなく評判の良かった日本興業銀行に入行した結果、規定のレールから外れることに怖さを感じてしまった。それでメンタルダウンしてしまったんです。そこから「自分は何のために仕事をしているのか」を考えたときに、「出世レースを勝ち抜いて銀行のトップになるためではない」と気がつきました。心の内に抱えてきた想いに私自身がとことん向き合うことで、メンタルダウンから復活することができました。そしてあるとき、部署の達成会でメンバーの前で話をする機会があり、「私はプロサッカー選手の三浦知良(カズ)と同い年。カズがあれだけ活躍してるのに、自分がこんな状態なのは許せない。これから生涯をかけてカズを追いかけていきます」という宣言をしたんです。冷静に振り返ると、銀行員のライバルがカズというのは全然意味が分からないのですが、そこから「人は迷ったり立ち止まる時もあるけれど、可能性は無限大である」と思えるようになりました。心理的安全性を提供し、一人ひとりの違いを理解する──メンバーのモチベーションを高めていけば、それぞれが自然に考えて行動を起こす「自律型組織」になっていく。伊藤:「自律型組織」に必要なことは、メンバーそれぞれがきちんと自律していることです。繰り返しになるのですが、一人ひとりの考え方や価値観は異なるので、それを理解した上で可能性を引き出してあげることが大切です。それに加えて「心理的安全性」の提供も重要です。「心理的安全性」とは、“言いたいことが言える” 環境を提供することです。私は今、武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部の学部長を務めているのですが、学生たちへ「人の夢を笑わない空間をつくっていこう」と日々伝えています。一人ひとりにきちんと寄り添いながら、組織全体では「心理的安全性」が確保されていて、言いたいことも言える。その状態が構築できると、一人ひとりが自律していくようになりますし、組織としても自律することができる。そうすれば「自律型組織」のできあがりです。──これまで組織づくりで失敗された経験もあるのでしょうか。伊藤:たくさんありますよ。原因はさまざまですが、結論としては「きちんとコミュニケーションが取れていなかったこと」に尽きると思います。どちらが悪いという話ではなく、お互いが充分にコミュニケーションを取れていなかった。その結果、コミュニケーションミスが起こり誤解が生じてしまい、お互いの求めていることが全然擦り合わせられなかったんです。やっぱり、とことん話すことが大事。ほとんどの人は「コミュニケーションを取れている」と思い込んでいますが、客観的に伺うとほとんど話せていない状況に驚くことも珍しくありません。まず心がけたいのは、相手や状況をすぐ分かったような気にならないこと。チームづくりにおいても、経営においても、分かった気にならず、常に話し続けることが大切だと思います。リファレンスチェックは採用やマネジメントに必要不可欠なツール──メンバーが持つ価値感や強み、得意とするものなどの“違い”を認識するにあたって、リファレンスチェックはどのような効果があると思いますか。伊藤:採用やマネジメントにおいて、リファレンスチェックなしの世界は考えられないです。マネージャーとしてチームメンバーやプロジェクトメンバーを検討する際、もちろん経営判断として決まることもありますが、私自身が検討する際は“知っている人”を基準に声をかけるようにしています。例えば、武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部の教員は私の友人がほとんどです。とはいえ、周りが友人だけでは運営に支障をきたす可能性も十分にあるので、友人たちにつながりの紹介をお願いすることもあります。その際、必ずリファレンスチェックを実施します。リファレンスチェックを実施しないと怖くて仕方ないです。第三者からの評価を基に、その人の特徴などを理解しながらチームを運営していくことは、「そうした方が良い」という話ではなく、マネージャーの責任だと考えています。採用においても、リファレンスチェックは必要不可欠。入社後にカルチャーギャップを感じてしまったら、お互いに不幸ですよね。不幸になる可能性を少しでも低くするために、リファレンスチェックを通して事前にスクリーニングをすることが大切です。どれだけチェックをしても人間なので少なからずギャップはあるはずなので、神経質になりすぎるくらいがちょうど良いのではないかと思います。その人の考えや価値観を面接だけで理解できるなら、誰も苦労しないと思います。面接に2年くらい時間をかけても良いなら話は別ですが、それは無理じゃないですか。カジュアル面談も含めて2〜3時間だけで候補者を理解することはできません。特に共通の話題などがあると盛り上がってしまい、「この人良さそう」となってしまいがちです。もちろん、自分の感性は大事なのですが、感性を信じすぎるのは適切な意思決定を行う上で良いとは言えません。リファレンスチェックはある種、自分の感性が正しいのかを確かめる“答え合わせ”のようなもの。これは採用に限ったことではありませんが、何事においても「本当にそうなのか」という視点を持つことはすごく大事だと思います。──最後に、伊藤さんが考える「リーダーに必要な素養」について教えてください。伊藤:まずは目指したい方向性、いわゆる“自分の軸”を持つことが大切です。メンバーの力を引き出すファシリテーション力も大切ですが、何かあったときに立ち返ることができる場所として、自分の軸をきちんと持っておくようにしましょう。最初は漠然としていたりぼんやりしたものでも大丈夫なので、日々の仕事や生活の中でどんどんイメージを洗練させていくと良いと思います。あとは、困ったときに助けをお願いする力です。自分の中でパシッと答えが出てくるのであれば、誰も苦労しません。答えがすぐに出てこないからこそ、周りに「助けてくれ」と素直に言えるかどうか。「助けてくれ」と言ったときに、周りが「しょうがないね」というような感じで助けてくれて、メンバーの力を引き出していく。周りに助けをお願いする力や人間力みたいな部分が、リーダーには必要不可欠な素養だと思います。最後までご覧いただき、ありがとうございました!コンプライアンスチェック・リファレンスチェックサービスの「back check」は、Web上に候補者の情報を登録するだけで、面接では見抜くことが難しい情報を取得することが可能です。コンプライアンスチェック・リファレンスチェックの実施経験がないご担当者様や、利用方法・運用に不安をお持ちのご担当者様でも、簡単な操作ですぐに利用することができます。ぜひこの機会に「back check」の導入をご検討ください。