自分の雇用は自分で守る「セルフ終身雇用」がスタンダードに──今や「転職」は当たり前のものになりつつあります。個人はどのような考えのもとキャリアを構築していくべきでしょうか。佐野:昔と今を比較すると、分かりやすいのかなと思います。昔は転職に対して「裏切り」や「逃げ」といったネガティブなイメージが根強くありました。なぜなら、新卒入社した企業で定年退職まで勤めあげる「終身雇用」が信じられていたからです。ほとんどの人がそうした価値観を持っていたので、転職を考える人はあまりいませんでした。また、高度経済成長期のように20〜30年という長い年月をかけて大きな産業をつくっていくという時代においては、終身雇用はとても効果的な制度だったのだと思います。そこから社会環境が変化し、今は短期間で急成長を目指していくスタートアップやベンチャー企業の数も増えてきています。産業構造が大きなものから小さなものに変わってきていることもあり、それに合わせて雇用の形も変わってきているんです。結果として、終身雇用は現実的なものではなくなり、転職という手段が当たり前の選択肢となっています。転職が当たり前の時代において、今後大事になってくるのが「セルフ終身雇用」という考え方です。日本では法律上、解雇がしにくいということもあり、これまでは「入社=あなたの人生を最後まで面倒見ますよ」という暗黙の了解が企業と従業員のあいだにありました。これを「心理的契約」といいます。ただ、その前提が崩壊しつつある。日本を代表する企業のひとつである、トヨタ自動車の豊田章男社長も2019年5月の日本自動車工業会の会長会見で「終身雇用を守っていくのは難しい」と言っているくらいです。(引用元:「終身雇用難しい」トヨタ社長発言でパンドラの箱開くか|日経ビジネス)新卒入社した最初の1社だけでキャリアを終える時代ではなくなった今、大切なのは複数の企業から「あなたと働きたいです」「一緒に仕事しませんか」と常にオファーされる状態をつくることです。今までは1社から「働いてほしい」と言われたものを、月20万円の契約で5社から「一緒に働こう」と言われたとしたら、月収は100万円。一般的な会社員の給与よりも高いわけです。複数の企業と常に契約を結んだ状態を維持し、自分で自分の雇用を守っていくという「セルフ終身雇用」の考え方が今後のキャリア形成のスタンダードになっていくと思います。──1社だけに依存しないキャリア形成が大事になっている。佐野:そうですね。ただ、とにかく転職すれば良いのかと言われると、それは違うと思います。大転職時代と言われると、「どんどん転職すれば良い」みたいな考え方になりがちですが、個人的には転職って海外移住するようなものだと思っていて。それこそ日本からブラジルへ引っ越すぐらい、企業ごとに職場環境が異なったり文化の違いがあったりするので、頻繁に転職しているとパフォーマンスを発揮するまでの順応フェーズでそれなりに疲弊しますし、時間もかかる。働きながら転職活動をするのは大変なんです。「会社辞めたい」と思ったら「退職成仏ノート」に不満を書く──著書の『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!転職後も武器になる思考法』(サンマーク出版)では、転職の仕方についても言及されていました。転職を考える際、意識すべきことは何だと思いますか。佐野:「とにかく辞めたい。ここじゃなければどこでもいい」という状態で転職活動を始めると、基本的に失敗します。この状態は分かりやすく言うと、熱が39度くらいある状態でランニングをするという状況に近いイメージです。冷静な判断ができる状態ではありません。また、今はWeb広告やテレビCMなどでも転職エージェントや転職サイトの広告が流れてくるので、モヤモヤしたら「とりあえず登録してみよう」となりがちです。ただ、その状態で転職活動をしても、良かったと思えるような転職活動にはなりにくい。辞めようかなと思ったときに、私がオススメしているのは「退職成仏ノート」を作成することです。これは、ノートに今抱えている職場環境や業務内容への不満をとにかく書き出すというもの。客観的に言語化されていない漠然とした不満を起点に転職エージェントに登録して話をすると「この人は感情的になっているだけでダメだな」と思われてしまいがちですし、面接で不満ばかりを口にしていると「他責思考が抜けない人だな」という風にも思われて、選考においてマイナス評価となる可能性が高いです。仮に内定をもらって転職できたとしても、すぐにまた辞めたいというスイッチが入ってしまい、転職活動を繰り返す。いわゆるジョブホッパー状態になってしまいます。辞めたいと思ったら、まずはその不満をノートに書き出して冷静に客観的にとらえることで成仏させる。ノートに書き出してみると、意外と「些細なことで悩んでいたんだな」と気づきがあるものです。それがきっかけで「会社を辞めるのをやめようと思います」と言い出すケースは少なくありません。ネガティブな情報をアウトプットできる場所を設定し、ノートやパソコンのメモ帳に書き出し、発散させましょうということです。「転職にオススメの企業」3つの条件──佐野さんが考える「転職にオススメの企業」の条件は何でしょうか。佐野:候補者目線や投資家目線などいくつかの視点はあるのですが、今回は候補者目線でポイントをお伝えします。良い仕事の定義は大体決まってきていて、大きくは「何かを始めるか」「何かを変えるか」「何かを終わらせるか」の3択です。これらは付加価値が高い仕事と言われており、それに取り組んできた人は「市場価値が高い」と評価される傾向にあります。こういった業務を経験できる環境を提供しているのが、転職にオススメの企業です。具体的には事業そのものが成長フェーズに入っている企業がオススメでしょう。成功法則が確立されていて、あとはそれを回すだけの企業は落ち着きがあるかもしれませんが、あまり成長の機会はありません。そのため、違う企業に転職しようと思ったときに、評価されにくいという状況にもなりやすい。「何かを始める」という点においては、分かりやすい事例はスタートアップです。大企業であれば新規事業の立ち上げ、新店舗のオープンなどのプロジェクトに取り組む部署やチームが良いでしょう。他の視点から考えると、独自開発した技術を保有しており、業界シェア1位や2位の企業がオススメです。ニッチな産業を対象にしているかもしれませんが、こうした企業は自分たちにしかできない価値提供を強みにしているため、社員のやる気が総じて高いことから、顧客からの評価も高くなる傾向にあります。加えて価格競争にも巻き込まれにくいため、利益を社員に還元できるという良いサイクルが回っています。そのため、入社してから「想像以上にブラック企業だった」というような期待値のズレを心配する必要はないでしょう。一方、安さだけを価値にしている企業は、商品そのものの付加価値が見込めないため、「気合いで売ってこい」などのハードマネジメントにどうしてもなりがちです。転職サイトにはフリーワード検索の機能があるので、そこで「ニッチトップ」「シェアナンバーワン」「リーディングカンパニー」「独自技術」といったキーワードを入力してみて、興味が持てる企業を探してみるのもひとつの手です。さらに付け加えるとアルムナイがある、もしくはアルムナイが機能している企業も個人的には強くオススメしています。アルムナイとは、「企業の離職・退職した人の集まり」のこと。退職した人を再雇用するアルムナイ採用や、アルムナイと関係性を構築するアルムナイネットワークなどがあります。このアルムナイがあると、入社した人がどんなキャリアを歩んでいるのかを開示していることが多いです。これは飲食店の口コミのようなもので、「ここに3年いたらこうなるんだ」「ここに5年いたら独立する人が多いんだ」など、入社して働いた後の姿が分かることで、意思決定もしやすくなります。転職活動において未来の姿を想像するのはすごく重要なので、アルムナイがあるかもチェックしておくと良いですね。他者の視点から自分の魅力をアピールできる採用ミスマッチをなくすのに欠かせないツール──理想の転職を実現するにあたって、リファレンスチェックは候補者にどのようなメリットがあると思いますか。佐野:私はリファレンスチェックの導入に共感しています。なぜなら、今の採用手法には構造的な欠陥が多いからです。書類と面接だけでは候補者が入社した後の相性を理解できるわけがないのに、多くの企業の採用選考は書類と面接だけで進めています。これらだけで何が分かるかと言えば、書類の書きぶりの上手さと面接の喋りの上手さだけです。今の採用手法で分かるのは、採用を通過する能力の高さです。企業が知りたいことは入社後の業務に直結するような実務能力や社風に合うかどうかですし、候補者も自分の価値観と合うのかどうかを知りたいと思っているはずです。それを確かめる手段が今まではなかったので、そのギャップを埋めるツールがリファレンスチェックだと思っています。リファレンスチェックは自分で言ったら胡散臭く聞こえてしまうようなことも、上司や同僚が第三者評価として伝えてくれるので信憑性があります。それがリファレンスチェックの良さですし、候補者側のメリットも大きいと思います。これまでの面接では自信を誇示して自分のことをとにかく褒める、いわゆる“優秀さアピール合戦”が起きていたと思います。謙虚な方であればあるほど「これは自分の力だけで達成できたことではない」という考えを持っているので、言葉を濁してしまいがちです。その結果、人事の目には「この人は自信がないんだな」とうつり、マイナス評価となってきていました。しかし、「上司から見たらこういう人です」「同僚から見たらこういう人です」という客観的な情報がまとめられたレポートが存在することで、第三者から本当の自分のことをアピールしてくれる。面接が上手でない人も適切な評価を受けられる点で、すごく意義のあるツールだと考えています。「陰の立役者」に光が当たるようになります。──企業側がリファレンスチェックを活用するメリットは何でしょうか。佐野:採用のミスマッチがなくなるという点に尽きます。これまでに世に生み出されてきた採用関連のさまざまなサービスも、基本的には採用のミスマッチをなくすことを目的に開発されてきたのですが、この課題はまだ解決されていません。書類選考や面接はミスマッチが起きやすい構造になっているので、その構造に変革を起こす採用の形が浸透していってほしいと思います。企業は候補者の実務能力やカルチャーフィットをもとに採用したいと思っているのに、実際は面接力や転職力で採用してしまっている。そんな状況を打破し、企業と候補者の双方にとってミスマッチのない採用を実現するツールとして、back checkのさらなる普及に期待しています。最後までご覧いただき、ありがとうございました!コンプライアンスチェック・リファレンスチェックサービスの「back check」は、Web上に候補者の情報を登録するだけで、面接では見抜くことが難しい情報を取得することが可能です。コンプライアンスチェック・リファレンスチェックの実施経験がないご担当者様や、利用方法・運用に不安をお持ちのご担当者様でも、簡単な操作ですぐに利用することができます。ぜひこの機会に「back check」の導入をご検討ください。