上原 達也
XTalent株式会社
代表取締役
京都大学教育学部卒業後、株式会社SpeeeにてWebマーケティング・人事などを経て社長室に所属し、新規事業や海外法人の設立に従事。その後JapanTaxi株式会社へ入社し、事業開発を担当。 2019年7月に「フェアな労働市場をつくる」をミッションとするXTalent株式会社を設立。ワーキングペアレンツ特化のハイクラス転職サービス『withwork』と、企業のDEI推進に計測とトレーニングで伴走するDEIコンサルティング事業の2事業を運営。
Introduction
「ESG経営」や「人的資本経営」といった言葉とともに、「DEI(ディー・イー・アイ)」と称されている「ダイバーシティ(Diversity)」「エクイティ(Equity)」「インクルージョン(Inclusion)」の重要性が高まりつつある。2020年にマッキンゼー・アンド・カンパニーが公表した「Diversity wins: How inclusion matters(多様性の勝利:インクルージョンの重要性)※」によれば、経営層の女性比率の高さで上位25%に入る企業は、下位の25%と比べて平均以上の収益性がある可能性が25%高いという。
また経営陣の30%以上を女性が占める企業は、女性比率が低い企業の収益性を上回る確率が高く、同様に人材の民族的・文化的な多様化が進んでいる上位25%の企業の収益性も、下位25%の企業を上回る可能性が36%高かったという結果も分かっている。
DEIの推進は企業にとってすぐにでも取り組むべきテーマであるが、一方でどう進めていけば良いか分からないところも多いだろう。企業がDEIを推進していくために必要なことは何か。また、採用においてどのように優位性を発揮するのか。さまざまな業界の企業を対象に、DEIコンサルティング事業などを手がけるXTalentの上原達也氏に話を聞いた。
(※)https://www.mckinsey.com/~/media/mckinsey/featured%20insights/diversity%20and%20inclusion/diversity%20wins%20how%20inclusion%20matters/diversity-wins-how-inclusion-matters-vf.ashx
上原:D&Iは「Diversity(多様性)」と「Inclusion(包括性)」の頭文字をとった言葉になります。この2つが実現されている世界というのはパーティーを例にすると、いろんな人をパーティーに呼び、なおかつ参加者がダンスをして溶け込んでいる状態。多様な価値観の人が集まり、誰ひとり浮くことなく馴染んでいるようなイメージです。
近年D&Iという言葉を耳にする機会が増えたように感じますが、D&Iそのものの重要性は15年ほど前から説かれています。きっかけとなったのは、リーマンショックです。リーマンショックによって多くの企業の業績が悪化したわけですが、回復が早かった企業にはとある共通点がありました。それは「女性の取締役が一定以上いる」ということです。
そこから金融を中心とした資本市場では「男性だけの同質的な環境はリスクが高い。企業が発展していくためには多様性があることが重要である」という考えが広がり、進んでいきました。
その結果、資本市場からのプレッシャーと言いますか、多様性のある企業の方が市場価値は上がっていくという文脈からD&Iの重要性が認識され始めました。
加えて、最近は採用においてもD&Iの重要性が増してきています。もともと日本の社会では男性が働き、結婚後は女性が家庭に入ることが当たり前とされてきました。ただ、時代の変化とともに共働きが一般的となり、最近では結婚・出産後もキャリアダウンさせることなく働き続けて活躍したいという考えの女性も増えてきました。また、男性においても、子どもが産まれたら仕事ではなく家庭をメインにしたいという志向の人も増えてきています。
人々の価値観が多様化している中で、「男性はとにかく働くのが是」という旧来の価値観のまま採用市場に向き合っていたら、企業は求める人材を採用できません。適切な人材を採用するためにも、D&Iの実現は必要最低限のラインになってきていると感じています。

上原:先ほどのD&Iに「Equity(公平性)」を足した言葉になります。日本の企業でも自然と実現できているところはあるのですが、DEIはそれぞれの違いを考慮し、みんなが最大限のパフォーマンスを発揮できる環境をつくっていきましょう、というものです。
例えば、右利きだけでなく、左利きの人も使えるハサミを作るなど、環境の違いに合わせた措置のことを指します。近年、生理休暇などウィメンズヘルス領域の施策も増えてきていますが、それらもEquityを実現するための施策のひとつです。
社内にDEIの価値観を根付かせ、働くメンバーの価値観に向き合っていく姿勢がなければ、採用もできないですし、入社後の定着率もなかなか向上しにくいでしょう。人々の価値観が多様になってきているからこそ、いろんな視点を考慮した組織づくり、モノづくりをしないといけない世の中になってきています。そこにきちんと対応していくためにも、組織の中に多様性が活きるような風土づくりが求められるようになっています。
ESG経営や人的資本経営の重要性が高まるなど、外堀は埋まりつつあります。ESG経営の「Social(社会)」には従業員の人権に関する記載もありますし、人的資本の項目にはダイバーシティという項目があります。
DEIに企業が向き合い、きちんと情報開示していかなければ資本市場からも評価されませんし、自社の従業員のみならず世の中の働く人々からも違和感を持たれる時代になってきていると言えるでしょう。

上原:日本の企業を見ていくと、「女性活躍推進」や「育休取得率◯%達成」といった目標を掲げているところはたくさんあります。ですが、どれだけの企業がそれらの目標を達成できているのでしょうか。表面的な目標や数字を掲げているだけでは、結果的には上滑りで終わってしまいます。大切なのは「なぜやるか」を考え抜くことです。やるべき理由を考え抜き、そこにトップをはじめとした経営陣がコミットする姿勢を見せ続けなければ本質的な風土づくりは難しいと考えています。
風土づくりに必要なステップとしてまずやるべきことは、全社員を巻き込んだ対話の場づくりです。企業として自分たちが何を目指していきたいのか。社員の人たちと話し合い、やるべき理由を企業のミッションに紐付けてメッセージとして発信していきます。その際、大事になるのは「ポリシーをいかに日常の共通言語に落とし込めるか」ですから、企業のミッション・ビジョン・バリューなどをもとにしながら策定していくのがオススメです。
私がよくアドバイスとしてお伝えしているのは、「いきなりボジティブなことをしようとしない」ということです。多くの企業はまず「ポジティブなことをやろう」と意気込みがちなのですが、大事なのは「ネガティブな部分をなくすこと」です。

上原:アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)と呼ばれる、自分自身は気づいていない「ものの見方やとらえ方の歪みや偏り」をマネジメントし、違和感のある発言やコミュニケーション、意思決定をしないようにする。これが一番最初にやるべき最も重要なことです。
その後に「インクルーシブ・リーダーシップ」という、社員一人ひとりが持つリーダーとしての能力を活用し、組織全体の能力をアップさせる手法を学んでいくのが良いでしょう。いきなり風土づくりから始めようとする企業も多いのですが、一朝一夕に風土は醸成されません。まずはネガティブな部分をなくすなど、バイアスを自覚して、それらをマネジメントしていけるようにするべきです。

※XTalent社の資料より引用
上原:例えば、メルカリの「無意識(アンコンシャス)バイアス ワークショップ」はすごく注目を集めました。アンコンシャス・バイアスは採用にも通じる部分があり、ほとんどの人は何かしらのバイアスを持っているんです。これはジェンダー(性別)に限った話ではなく、例えば「大企業出身だから意思決定のスピードが遅そう」や「年齢が高いからアンラーニングできなさそう」といったものが該当します。組織規模が小さいスタートアップは、短期間での成長を追い求めるために似たような価値観の人が集まった同質的な組織にしてしまいがちです。短期的にはスピード感が出せるのでそれが正解なのかもしれませんが、長期的な視点に立ったときに同質的な組織のまま事業をスケールさせていくことができるでしょうか。
組織の人数を増やし、より大きな規模にしていこうと思ったら、似たような価値観の若いメンバーだけでは難しい場面が多々あります。どこかのフェーズで全く異なるバックグラウンドの人にも入ってもらう必要があるでしょう。同質的ではない組織の方が経験やナレッジの多様化が生まれるはずです。多様性は決して性別や年齢などの属性の話だけでなく、経験や価値観も含めたもの。
一般的に「多様性がイノベーションを生む」と言われていますが、インクルージョンが欠けた属性だけのダイバーシティがある状態では組織に悪影響を及ぼすという研究結果もあります。多様性だけがある状態は、意見の対立を引き起こすからです。
一方で、外部環境の変化が激しい今の社会では、企業は生まれ変わり続けないといけない。対立を超えて組織の意思決定をより正確なものにすることは、あらゆる企業の競争優位性構築のために必要なことなんです。そこで重要になるのがインクルージョン。さまざまな価値観や経験を持った人が集まるだけでなく、対等に意見を言い合える風土や情報の透明性、機会の公平性などが伴うことで、初めて多様性はイノベーションを生み出すと言えるのです。
多様性をいかに組織の強みや競争優位性にできるか。それができる企業は採用における優秀人材の獲得においても優位性を発揮できますし、仲間になってくれた人材を活かしていく点でも有効に働く。スタートアップも含めた多くの企業が、それぞれの多様性に向き合って強みに変えていくことが大切だと考えています。

上原:リファレンスチェックは「アンコンシャス・バイアス」という採用における障壁をなくしてくれる可能性があると思っています。採用においても、つい人は無意識のうちに不要なフィルタリングを持ち込んでしまっている部分があります。そうした時にリファレンスチェックを実施することで、自分とは異なる意見を取り入れることができる。新しい視点を持つことで本質的な採用ができる可能性が高まるので、とてもポジティブな存在としてとらえています。
リファレンスチェックは「ネガティブな部分を事前にチェックしておく」という意味合いで使われることも多いですが、個人的には人のポジティブな部分を引き出すツールだと考えています。これからの世の中に、その価値がもっと広く伝わっていくことを期待しています。

最後までご覧いただき、ありがとうございました!
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