石黒 卓弥
株式会社LayerX
執行役員
株式会社NTTドコモに新卒入社後、マーケティングのほか、営業・採用育成・人事制度を担当。また、事業会社の立ち上げや新規事業開発なども手掛ける。2015年1月、当時まだ60名だった株式会社メルカリに入社し人事部門を立ち上げ、5年で1800名規模までの組織拡大を牽引。採用広報や国内外の採用をメインとし、人材育成・組織開発・アナリティクスなど幅広い人事機能を歴任。2020年5月、株式会社LayerXに参画。人事と広報領域を担当している。
Introduction
「人が育つ企業」を標榜し、2018年の創業からわずか5年で新卒採用に取り組んでいるスタートアップがある。法人の支出管理領域にまつわるプロダクト群を展開するLayerXだ。
同社は2023年3月に新卒採用に本格的に取り組んでいくことを発表した。急成長を目指すスタートアップは、“即戦力”となる中途人材を求める傾向にある。そうした中、なぜLayerXは新卒採用を本格化することにしたのか。また、新卒入社のメンバーを育てていくために、どのような考えのもと育成に取り組んでいるのか。LayerXで執行役員を務める石黒卓弥氏の話から見えてきたのは、優秀な人材から“選ばれる企業の条件”だった。
石黒:人事管理や人事考査のような「制度の運用をする」という仕事から、より「経営に資する」仕事だと認知されてきたという感じはあります。周りの人事パーソンから、「もっと経営陣との距離を近づけたい」と相談を受けることも増えました。CHRO(最高人事責任者)というポジションも一般化しつつありますし、「採用マーケティング」や「採用広報」、「HRBP(HRビジネスパートナー)」など人事にまつわる言葉も広がっています。
石黒:理由のひとつには「優秀な人材の希少価値が高まっている」点があるのではないかと考えています。ChatGPTなどのAI技術も含め、機械にできることが増えつつあり、今後は労働人口が減少していくとも言われています。そうした時代において、どの企業もエース人材が欲しいはずですから、優秀な人材の価値はどんどん上がっていきます。つまり、そういった人たちに選ばれる存在でなければならない。経営陣が人事に期待している役割のひとつは、「選ばれ続ける企業」にしていくことだと思っています。

石黒:採用広報の目的は「認知獲得」ではなく、「適切な認知獲得」にあります。誤解をしやすい部分なので繰り返しますが、「認知獲得」はあくまでも手段。本来の目的は「適切な認知獲得」です。ただ情報が広がれば良いのではなく、社内と社外の情報格差をなくすために採用広報がある、ということを忘れてはいけません。
noteを使った取り組みは、社外に当社の「ありのまま」を伝えるためにやっています。「めっちゃ苦労しました」とか「ドキドキしながら入社しました」とか、メンバーの感情がありのまま書かれているので、社内の空気感も伝わりやすい内容になっていると思います。読んだ人に「そういうものか」と安心してもらえる材料になっていると嬉しいです。
知名度の高い、いわゆる大企業は今も昔も採用において人気ですが、もっと選択肢が増えても良いと思っています。例えばバッグを購入する時、誰もが知っているブランドも良いですが、「自分だけが知っているブランド」を選んでも良いじゃないですか。それと同じで、だからこそ自社の「ありのまま」を伝えることが大切です。
石黒:「よく見せたい」という気持ちは当然起こりえるものなので否定はしません。でもよく見せた部分って最初のきっかけにしかならないことが多いですし、結果的に後々がっかりさせてもしょうがないじゃないですか。
例えば、ホームページのデザインや面接の雰囲気を見て「良い企業だ」と思って入社してみたら、社内で飛び交う言葉遣いが汚かったとか。それって企業と働く人のどちらにとっても辛いことですよね。何を受け止められて、何を受け止められないかは人によって許容度が違う。「ありのまま」を伝えたほうが、気持ち良い関係を築けると思います。

石黒:当社では、全ての候補者において選考時に「back check」を活用しています。このリファレンスチェックで得た情報は参考にはしますが、そのまま鵜呑みにすることはありません。あくまで面接で気になった点の答え合わせとして参考にしています。
面接の印象とリファレンスチェックの情報が大きく乖離することってあまりないんですよ。気になる点があったら候補者本人に「ご自身ではどのように受け止めていますか」と直接聞いてみることもあります。
石黒:大いにあります。育成という視点でリファレンスチェックを活用するなら、注目すべきは「伸びしろ」の部分です。前職での状況を踏まえつつ、どの部分をどうすれば当社にとっても、本人にとってもプラスになるかを考えます。
当社では、back checkの質問項目のうち「Aさんはマーケットの上位10%に入りますか?」という内容を採用しているのですが、ほとんどの人が「入っている」と回答される傾向があって。このままだと参考になる情報とは言い難いですよね。そこで、その質問をチューンアップして「Aさんはマーケットの上位10%に入ると思いますか?また、上位1%に入るために必要なことを教えてください」という質問に変えたんです。すると回答の質が上がって、本人の「伸びしろ」について解像度の高い情報になりました。皆さんGoodなポイントは熱量を持って回答してくださるので、Motto(=伸びしろ)の部分を書いていただけるような質問設計が肝ですね。
当社では、行動指針の一つに「⻑期的な視点で社会の発展に寄与する存在であり続けたい。短期的な売上至上主義に走らず、仲間や社会から信頼を得られる行動を追求しよう」という「徳」を掲げています。今の時代は転職するのも、フリーランスになるのも個々の自由です。メンバーがマーケットで報われるために、「伸びしろ」という長期的な視点を持って一人ひとりと向き合っていきたいです。それが結果として経営に資する人事の役割を果たすことにもなり、当社が選ばれ続ける企業となっていく道筋だとも考えています。
石黒:back checkをどのように活用するべきか悩んだときは、カスタマーサクセスにどんどん相談をさせていただいてます。「他社ではどういった質問をしていますか」とか「どんな質問をしたら聞きたいことが引き出せますか」など。他企業の質問項目を事例として参考にさせていただくことで、学びになることもあります。
また、質問設計をした後に自分でも「リファレンスチェックに回答してみる」ことで大きなヒントを得られると思います。実際に回答してみると、どの質問が答えづらいか、どのくらい大変なのかを身をもって感じることができ、定量的な回答を求める質問についても感覚を掴むことができます。
あとは、リファレンスチェックを採用フローに導入していることをオープンにするようにしています。「変な人を採用しないように」という後ろ向きな目的だけだとどうしてもクローズドな情報になってしまいますが、候補者に対して「あなたのパフォーマンスを上げるためですよ」というポジティブな目的を伝えてあげることで、リファレンスチェックを受け入れてもらいやすくなるのではないかと考えています。

石黒:僕はマネジメントを「ガードレールを敷く」と表現しています。「ここまでは自由にやってくれていいけど、ここをはみ出るとクラッシュするかもしれない」という範囲の設定です。あらゆる場面でガードレールをうまく仕切れるマネージャーは強いなと感じますね。
僕の場合は、新しいメンバーには「僕が謝ればいい案件は勝手にやってください。でも福島(代表取締役 CEO)が謝らなくちゃいけない案件は、僕に一度確認してください」とお伝えしています。これはかなり広めのガードレールです(笑)
もちろん個々人に対してのガードレールの幅調整は必要です。「広すぎると歩けません」という人には狭く設定してあげたり、自立性の高そうな人には広めに設定してあげたりしています。
石黒:当社では日報を活用しています。ただし日報は管理するためではなく、コミュニケーションの手段としてお互いを知るために使っています。なので役職は関係なく、代表も書いていますし、もちろん僕も書いています。マネージャーほど何をやっているか見えづらいし、それが原因でチームメンバーから不満を持たれるという話もよく耳にします。
そのため、役職者こそ「今日はこれをやりました」と積極的に報告したほうが良いと考えています。日報って上司が部下の仕事を把握するためにあるイメージですが、実は上司から部下へのアカウンタビリティとしても活用できるんです。経営陣が進めているプロジェクトの内容や企業の全体像が見えると、みんな安心するじゃないですか。例えば、遠くから飛んでくるボールが早めに見えていれば対処できるけど、 いきなり目の前に飛んできたら焦りますよね。遠くからでも存在が分かるようにすることが大事なんです。

石黒:人材育成において重要なのは、まず「方針を決めること」です。「育成」と一口に言ってもたくさんのパターンがあるので、その中から自社のカルチャーに最も適した戦略を見極める必要があります。例えば新卒を100人採用したとして、10年後に全員同じような能力を持っている状態にしたいのか、それとも2割の強いエースを育て上げたいのか。この2つだけでも育成の方向性は大きく異なることがイメージできると思います。
採用力の高い企業を分析してみると、各社が持っている「色」が見えてきます。新卒採用に力を入れていたり、中途採用に力を入れていたり、あるいは新卒と中途をバランスよく採用していたり、企業によってさまざまです。「社会のトレンドだから育成に力を入れよう」という表層的な動機からスタートすると、結果的にふわっとした組織にしかなりません。まずはどのような「色」にしたいのかを決めることで、何を選択して何を捨てるべきなのかが見えてくるはずです。
石黒:代表取締役 CTOの松本がジョインしたタイミングだったと思います。2021年の春頃です。そこから「若手を育てていこう」という雰囲気が醸成されていきました。主力事業である、法人の支出管理領域にまつわるサービス群「バクラク」シリーズが顧客から評価されてきた時期でもあります。新卒を受け止められる、育成できるパワーがついてきたと実感できた頃です。PMF(プロダクト・マーケット・フィット)するか分からない時に新卒の採用はできませんから。
「受け止める」という表現を使いましたが、社内では新卒入社の社員をいわゆる “新卒”と思っていない空気があります。たまたま「2024年4月に大学を卒業するだけ」であって、社会人より能力のある人もいる。当社ではインターンからの新卒採用が100%なので、新卒だからといって初日から「LayerXとは」「DXとは」のような座学は行いません。新卒・中途に限らず、一人ひとりが自身の強みや信念を持ちながら、マーケットで戦っていくという考えがあります。とはいえ今後は育成面について、より注力したいですね。
石黒:私たちはちょうど今それを決めていくフェーズにいます。 先日開催した経営陣が集まるオフサイトミーティングでは、「LayerXをどういう組織にしたいのか」をテーマに議論を交わしました。
あくまで現段階での話にはなりますが、当社は新卒と中途のバランスを取りながら採用していきたいと考えています。新卒採用のメンバーにはビジネスの「型」を習得してもらいつつ、中途採用で「責任ある立場」を任せられるメンバーを増やしていく計画です。時間をかけて「型」をつくれると、企業にとって強い基盤となります。一方で、スタートアップには短い期間で企業を急成長させていく側面もあるので、中途入社の方には前職で培ってきたことを即戦力として還元してもらえると心強いです。
スタートアップにおける新卒採用は、合理的に考えたら費用対効果が良いとは言えません。内定を出した後、実際に入社してもらえるのは1年半後。スピーディに状況が変化していくスタートアップにとっては、内定当時の1年半前と入社時の状況が異なっている部分が多々あります。
それでも新卒採用に取り組むのは、長期的に見て企業が大きくなっていくために必要だからです。新卒採用が強い企業って組織自体も強いんですよ。働き方も年齢制限も多様化を続ける時代において、私たちは新卒という才能の原石にもっと賭けていきたいと考えています。

最後までご覧いただき、ありがとうございました!
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